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冷え切った指先が震えて玄関の鍵が中々鍵穴に刺さってくれない。朝、急いでいたせいで手袋を忘れていたせいだ。
それだけじゃない。今日の私は遅刻に始まり、朝の見知らぬ女の子のことが気になって仕事に手がつかず、何度もミスをして係長に謝る羽目になった。もしかしたら、まだ見つかっていないミスがあるかもしれないと考えると、更に憂鬱になってしまう。
女の子の言葉ではないが、いっそ、仕事を休んでしまいたくなる。
いや、そもそも、これもそれも、全部あの女の子のせいだ。朝っぱらから他人の家に上がり込ませるなんて、親御さんは一体どんな教育をしてるんだ、全く。
とはいえ、あの子はちゃんと家に帰れただろうか。
まあ、二度と会うこともないだろうし、考えるだけ無駄か。
ようやく鍵が開き、玄関のドアを開ける。
「ただいまー」
そう真っ暗な部屋に向かって言ったところで私は一人暮らし。返事がないことは知っている。それでも、小さな頃からの癖で言ってしまうのだ。
「おかえりー」
しかし、今日は何故か返事があった。
え? 誰か、居る?
驚きはしたものの、小さな女の子の、しかもなんだか聞き覚えのある声だった。わたしは雑に靴を玄関に脱ぎ捨てると、その正体を確かめるためにドタドタとリビングへと急いだ。
照明のスイッチを入れる。明るくなると、今朝の少女が部屋の隅にちょこんと座ってこっちを見ていたので、その不気味さに私の肩がビクッと跳ねた。
真っ暗な部屋で何をしてるんだこの子は……。
「いやいや、そもそも、どうやって部屋に入ったの?」
今朝、私は出かける時に間違いなく鍵を閉めた。それは、この子が居たおかげで意識していたので覚えている。起きた時だってそう。昨日の夜、私は間違いなく玄関も窓も鍵を閉めていた。それなのに、何故かこの子は鍵を無視して私の部屋に侵入している。合鍵でも持っているのか?
「どうやってって……」
言いながら、女の子はおもむろに壁に手を当てる。
「こう?」
すると、何故か女の子の手は壁の表面で止まらず、手首まで入ってしまった。
元々そこに穴があったわけでも、物凄い力で穴を開けたわけでもない。まるで、そこに固い壁なんて無いかのようにスッとすり抜けてしまっている。
「ほら、わたし、幽霊だから」
「は?」
衝撃の事実をさも当然のことかのように女の子は言いのけた。私はぽかんと間抜けに口を開けたまま動けなくなってしまった。
いやいや、確かにこの女の子が俗に言う幽霊ならば鍵なんて有って無いようなものだろうし、家への侵入なんてお手の物だろう。学校に行かなくても不思議はない。親御さんが心配することだってないだろう。だって、死ぬことよりも危険なことなんて思いつかないもの。
だからって、ねえ。
幽霊って本当に居るの?
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