ごーまんなフミちゃんと、真っ白なメイちゃん

師走 こなゆき

1‐P1

表紙画像

https://kakuyomu.jp/users/shiwasu_konayuki/news/16818093093281514920


「ううん……」


 無性に寝苦しさを感じて、私は呻いた。


 元来、私は一度眠りにつくと目覚まし音が鳴り響くまで起きない人間だ。学生の頃は寝坊しないために目覚まし時計とスマートフォンのアラームの二つを用意してもなお寝過ごしたこともある。


 チチチ……と窓の外から小鳥の声は聞こえているけれど、耳に突き刺さるような甲高いアラーム音は鳴っていない。ということは、まだ起きなくても良い時間のはずだ。


 それなのに目が覚めるなんて、不幸以外の何物でもない。


 ――フミちゃん


 不快感に苛まれる私を誰かが呼んでいる気がした。ちゃん付けだなんて、大人になってから呼ばれないのに。なんだか懐かしい。


 ――フミちゃん。フミちゃん。


 また聞こえた。一度だけならまだしも二度も三度も聞こえるなんて。どうやら、空耳ではないのかもしれない。


「んん、誰……?」


 私は寝ぼけて返事をしながら目を開く。


「おはよう、フミちゃん」


 布団で眠る私の胸に馬乗りになっている女の子が笑顔で挨拶をしてきた。


 ああ、だから苦しかったのか。小さな子とはいえ、人ひとりが乗っているんだもの。重いに決まってる。小学生くらいだろうか。


 寝苦しさの原因に合点がいき、私はもう一度布団に潜り込んだ。まだ起きるには早いから。目覚ましは鳴ってないから。


「……ん?」


 声を出したおかげか、寝ぼけていた頭が徐々に目覚め始める。


 私は洲脇すわきふみ。二十八歳。女。今のワンルームマンションには夏頃に引っ越してきた。生まれた県とは別の県の大学に進学してからはずっと一人暮らし。


 子どもは居ない。まだ結婚するつもりはないし、そもそも悲しいかなもう何年も恋人すら居ない。


 そして、わたしは一人っ子。当然、歳の離れた妹なんてのは存在しない。小さな子の友達ができるような気さくな性格ではないし、そんな人間関係もない。


 なら、今胸の上にいるこの女の子は誰?


 もしかしたら、まだ夢を見ているのかもしれない。だって、昨日の夜も間違いなく玄関と窓の鍵はかけた。それに、この部屋は四階だから小さな子がベランダをよじ登って侵入するなんて不可能だ。


 女の子なんて、居るはずがない。


 そう念じながら、恐る恐る私は布団から顔を出し、目を開いた。


 胸の上に何者かの重みを確かに感じているというのに。


「うん? どうしたの?」


 胸の上の女の子は可愛らしく首を傾げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る