最後の一羽

@wacpre

最後の一羽

 とてもとても長い冬。森に人の姿が見えなくなってからだいぶ経ち、鳥の姿さえ見えなくなった。深い雪の中を進むのは大きな角を持つ一頭の白鹿。彼の背中の上には一匹の栗鼠と一羽の白兎。彼らは凍えるような寒さの外、雪のない場所を目指して旅を続けていた。


 昼も夜もわからないほど暗い中、雪の下からドングリを探してくるのは栗鼠と白兎の役目。それを分けてもらう代わりに、彼らの温かな寝床になるのが白鹿の役目。三匹の旅路は順調ではなくとも、もうしばらくは続く気がしていた。先月までは。


 その日、白鹿の目覚めに気がついて起きたのは白兎だけだった。彼らのお腹が空くまで待ってみても、もう一匹は起きる気配がなかった。しっぽを包み込むようにして眠ったままの栗鼠をその場に置いていくことにした。雪の毛布が溶けるほどの春になったら、目を覚ますかもしれない。



 これまでみんなで分け合っていたドングリ。白兎一羽で集めるには限りはあるし、何より見つけられる数が段々と減ってきた。森の外が近い証拠かもしれないけれど、先に進むにはまずは食料が必要。樹の皮でさえ白鹿の届く範囲にはもう残っていない。けれど、なんとか二匹で頑張った一ヶ月だった。



 最後まで残ったのは一羽だけ。森の外を、春を目指して飛び跳ねだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

最後の一羽 @wacpre

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ