(二)

 それは恋とも呼ぶべき、低俗な感情でした。

 恋愛ではなく、ただひたすらに恋。

 そこに愛はなく、ただ儚いきらめきと欲だけがありました。


 それでも私が負うていた大罪は、やはり色欲ではなく、嫉妬でもなく、そして強欲でもなく、暴食でした。

 全てを私のなかに欲しかったのです。

 腹の中に収めて、自分の一部としたかったのです。

 

 食えば食うほど空腹になることに、私はもう気がついていました。

 それでも求めることはやめられませんでした。


 何かひとつ、本当にひとつ、大切なものを腹に収めることができていたら、私の飢えは治まっていたかもしれません。


 むやみやたらに様々に手を伸ばし、何もかもを貪り食おうとさえしなければ、私はもう乾かなかったのかもしれません。


 もしかしたら、何が私を満たせる本当のひとつであるのかということすら、自分自身でとうに気がついていたのかも。


 しかし私はやはり、全てが欲しかったのです。

 

 とても醜いことだと知っていました。

 浅ましいことだと理解していました。

 恥ずべきことだと私は私の心を何度も殴りつけました。

 

 私は変われませんでした。

 

 いっそ開き直って悪徳者にでもなれれば良かったのでしょうか。

 はじめから己は悪であると、罪ある存在であると示し、街を練り歩いていたのであれば、きっと皆は私を避け拒んだでしょう。

 見た目から醜悪な、人の形ではない、中身通りの化け物の姿をしていれば良かったのです。

 そうであれば、私はこんなにも罪を犯さずに済んだでしょう。

 

 そう、私は今に至っても変われていません。

 

 私が化け物に生まれついたのだと、人間のふりをさせられたのだと、天の神やら世界やらに責任を求め、私が犯した罪によって傷つけられた人よりも、私が犯した罪によって穢れてしまった私自身のことを嘆いています。


 だからこれは、当然の罰でした。

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