第11話

 突然現れた、目の前の人外。

 人間じゃないナニカ。

 

「お前、俺の食料として一緒に来ないか?」


 そんな存在の、そんな言葉。

 少しでも常識があるのなら、頷いていい言葉なわけがない。

 ……でも、私は、おかしいから。おかしく、されたから。

 性欲のはけ口にされるでもなく、ただ、この世界に生まれてからずっと、暴力に晒されてきた。


 私の願いは昔から変わらない。

 何者にもなれなかった。だから、誰かの特別になりたかった。

 最後の瞬間、そう神様に願ったことだけは覚えている。

 他はもう、忘れてしまった。

 

 ここに閉じ込められている私は、この12年間、誰かの特別になんてなれなかった。

 だから、神様なんて居ないんだと思ってた。

 でも、違った。

 この方は、私を特別にしてくれる。私を、アイシテくれる。そんな気がする。

 

「……付いて、行きます」


 だから、目の前の方が化け物だと理解していながらも、私は乾いた唇でなんとかそう言った。

 言葉を話すのなんて何年ぶりだろう。

 上手く話せてるかな。

 敬語も、いつか外せるかな。

 もっと、もっともっと、この方の特別になれるかな。

 あァ、良かったなぁ。まだ、処女で。

 

 この世界に来て、初めて私の世界に色が付いた気がした。




​───────​───────​───────




 案外直ぐに頷いてくれたな。

 ……正直、自分でも「食料になってくれないか?」なんてどうかと思ったんだが、もしかしてこいつ、想像以上にやばいか?

 まぁ、別にそれでもいいか。

 こいつの性格なんて、どうでもいい。

 俺が求めてるのは美味い血だ。以上でも、以下でもない。


「檻から手を出せ」


 俺の言葉に、ゆっくりとではあるけど、少女は素直に檻から手を出してくれた。

 ……恐怖って感情が無いのか?

 それとも、俺が別に強くないことを見抜いてる?


(眷属化)


 少女の腕を掴みながら、スキルを発動させたつもりなんだが、何も起きなかった。

 ……もしかして、噛まないとダメ、とかか?

 よくある設定じゃそうだよな。

 ……噛み付くこと自体に抵抗は無いんだが、そのまま血を飲み干してしまわないかが心配だな。

 い、いや、頑張って我慢しよう。

 未来の為だ。

 俺は今だけじゃなく、未来でもこの血を飲みたいからな。


(眷属化)


 今度は少女の腕に噛み付いてから、スキルを発動した。

 その瞬間、少女の見た目に変わりはなかったが、何か、俺との繋がりができたような気がした。

 目に見えるものでは無いが、これで俺はこいつが絶対に裏切ることは無いと何故か確信することが出来た。


 少女も俺との繋がりを感じたのか、どこかボケー、っとしているように見える。

 ……いや、これはあれか? 俺がいきなり腕に噛み付いたから、ビックリしてるだけか?

 ま、どっちでもいいか。


(血液操作)


「行くぞ。歩けるか?」


 檻を壊した俺は、少女にそう聞いた。


「は​い──ぁ……」


「……まぁいい。俺が運んでやる」


 まだ眷属化してからの血の味は確認できてないが、今確かめてしまうと、もしも元の味のままだった場合、多分俺はこいつが干からびるまで血を飲み干してしまうだろうから、まだ我慢だ。

 少女の軽すぎる体を持ち上げながら、俺はそう考えつつ、来た道を戻っていた。

 地上に近づいていくにつれ、地上の方がザワザワと何やら騒ぎになっていることに気がついた。

 俺が殺したあの男の死体に気が付きでもしたか?

 まぁそうか。別に何の細工もせずに匂いに釣られるようにして、俺はこの少女のところまで歩いてきたもんな。

 

 ま、集まってくれているのなら集まってれているでちょうどいい。

 さっさと殺して、こんな村からは出よ​──あー、いや、こいつは眷属化したとはいえ、多分俺とは違って血を飲むわけじゃないっぽいし、一旦この村を占領するか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る