「にゃー。」

みかんの実

「にゃー。」



寒い冬。

冷たい雨の中。

あたしに手を差しのべてくれたのがたっくんだった。

ベタだけど、たっくんを好きになる理由なんて、その優しさだけでじゅうぶんでしょ?



あー、今日の帰り遅いな。

アパートの1LDK。広いとはいえない部屋の中。


「あー、ヒマ……」


お留守番のあたしは、ベッドにゴロンと横になると綺麗な音が鳴り響く。

たっくんがくれた初めてのプレゼント。


ご主人様の帰りを待ちながら、欠伸を1つ落とした。


お仕事残業かな。

上司に飲みに誘われたのかな。


朝、美味しい夕ご飯買ってきてくれるって約束してたのに。


「嘘つき……」


唇を尖らせたところで、誰からも返事は無い。

いっつもそう。

たっくんはお人好しだから。

早く帰ってきてくれないと寂しいよ。


窓の外を見上げれば、丸い月が浮かび上がっている。


真っ暗だよ?

もうこんな時間だよ?

外は寒いんじゃないかな?


頭を撫でて、ギュッと抱きしめてくれれば。

あたしはあなたの冷たい鼻にキスを1つ落とすのに。






「ただいまー」

「たっくん、お帰りなさい」


やっと、帰ってきた。

ベッドから飛び起きて、急いで玄関までかけて行ったのに。


「あ!可愛いー!」


たっくの隣に立つ、知らない女の人があたしに手を差し伸ばすから、慌ててたっくんの後ろに逃げた。


「ごめんな、遅くなって。お腹減っただろ?」

「その人、誰?」

「なんだよ、怒ってるのか?悪かったよ」

「ねぇ、たっくん」


今日の夕飯は、いつもより豪華な缶詰をあけてくれたけど。


今日は一緒に寝てくれないのかな。

たっくんのベッドのある部屋の扉に、カリカリと爪をたてる。

冷たい扉の向こうで、たっくんの掠れた息が聞こえた。


「にゃー……」


たっくん、大好きだよ──?





─fin─



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「にゃー。」 みかんの実 @mikatin73

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