「にゃー。」
みかんの実
「にゃー。」
寒い冬。
冷たい雨の中。
あたしに手を差しのべてくれたのがたっくんだった。
ベタだけど、たっくんを好きになる理由なんて、その優しさだけでじゅうぶんでしょ?
*
あー、今日の帰り遅いな。
アパートの1LDK。広いとはいえない部屋の中。
「あー、ヒマ……」
お留守番のあたしは、ベッドにゴロンと横になると綺麗な音が鳴り響く。
たっくんがくれた初めてのプレゼント。
ご主人様の帰りを待ちながら、欠伸を1つ落とした。
お仕事残業かな。
上司に飲みに誘われたのかな。
朝、美味しい夕ご飯買ってきてくれるって約束してたのに。
「嘘つき……」
唇を尖らせたところで、誰からも返事は無い。
いっつもそう。
たっくんはお人好しだから。
早く帰ってきてくれないと寂しいよ。
窓の外を見上げれば、丸い月が浮かび上がっている。
真っ暗だよ?
もうこんな時間だよ?
外は寒いんじゃないかな?
頭を撫でて、ギュッと抱きしめてくれれば。
あたしはあなたの冷たい鼻にキスを1つ落とすのに。
「ただいまー」
「たっくん、お帰りなさい」
やっと、帰ってきた。
ベッドから飛び起きて、急いで玄関までかけて行ったのに。
「あ!可愛いー!」
たっくの隣に立つ、知らない女の人があたしに手を差し伸ばすから、慌ててたっくんの後ろに逃げた。
「ごめんな、遅くなって。お腹減っただろ?」
「その人、誰?」
「なんだよ、怒ってるのか?悪かったよ」
「ねぇ、たっくん」
今日の夕飯は、いつもより豪華な缶詰をあけてくれたけど。
今日は一緒に寝てくれないのかな。
たっくんのベッドのある部屋の扉に、カリカリと爪をたてる。
冷たい扉の向こうで、たっくんの掠れた息が聞こえた。
「にゃー……」
たっくん、大好きだよ──?
─fin─
「にゃー。」 みかんの実 @mikatin73
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