導く人
ツヨシ
第1話
山で、迷ってしまった。
獣道すらないような山の中で。
来た方角が、皆目わからない。
山を下っていけば、どこかの人里に行ける可能性はある。
しかし地形が谷状になっていた時は、そこからまた昇らないといけないのだ。
行く方向によっては、数日間、山から出られない場合だってある。
しかし水と食料は、もうない。
なのに数日もさ迷ったら、命の保証はできない。
かと言ってここにとどまれば、確実に死が訪れるだろう。
下手に動けないし留まることもできないのだ。
――どうしたもんか。
迷っていると、突然声をかけられた。
「どうしました」
見ればそこに老人の男が立っていた。
近くに民家はなさそうなのだが。
中肉中背で、顔も平凡だ。
しかしそのどこにでもいるような顔には、大きな特徴があった。
目の傷だ。
左目は閉じられ、そこに上から下に向けて傷跡があった。
クロスする二本の大きな傷跡が。
俺は答えた。
「いやあ、山で迷ってしまって」
老人が答えた。
「それじゃあ人里まで案内しますよ。わりと近くにあります」
聞くものを安心させる、穏やかで落ち着いた声だ。
「そうですか。ありがとうございます」
俺はほっとした。
これで家に帰れるのだと。
老人が歩き出した。
ついていく。
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