頭の上に数字が視える能力で凡人最強を目指す

@shihami_

第1話 511000000

 どうやらまた気絶してしまったらしい。


 今日のダンジョンはいつもに増して瘴気が濃く、耐性を持たない自分にとってはゴブリンの肥溜めの方がマシなくらいの気分だった。


 ただでさえ冒険者として貧弱な僕がそんな中で、かつと肩を並べて正気を保てるはずもなく、1階層の半ばで攻撃を受けた拍子に呆気なくダウンした。

 普段なら3階層には到達できるのだが、どのみち大した功績ではない。僕くらいの年齢であれば、15階層は余裕で通り過ぎて然るべきなのだ。


 自分へのやるせなさで、いつも目覚めは最悪だ。

 特に今日は最悪な目覚めになる……はずだった。


「あ!お目覚めですね、ご気分はいかがでしょう?」


「……4?」


 治癒師の頭の上に「4」という文字が浮かんでいる。

 均一で強弱がなく、視認性に特化したフォント。かつて嫌と言うほど見てきたゴシック体のそれは、治癒師の頭の10cm程度上にピタリと浮かんでいた。


「よん…?」

「あ、いや、なんでもないです。大丈夫です」

「そうですか……?治癒は問題なく終わったと思いますが、もし痛みなどがあれば遠慮せず相談してくださいね。お仲間の方が入り口の方で待ってらっしゃるので、あとでお顔を見せてあげてください」

「はい、わかりました……」


 治癒師は不審な顔をしていたが、そんなことより自分の頭は「4」のことでいっぱいだった。

 の噂で聞いたことがある。あれは確か……その、経験人数が……


「大丈夫!?」

「うわぁ!」


 邪なことを考えていた最中、急に声をかけられ思わず飛び上がった。

 今回パーティを組んでいた、幼馴染のアイラだ。




 街の広場で、泣いていた彼女に手を差し伸べたのがきっかけだった。

 彼女は良い家柄のお嬢様だが、生来のおてんば気質で小さいころから家を勝手にぬけだしては村を駆け巡っていた。

 自分とはまるで違う種類の人間で、この出来事がなければ一生関わることもなかっただろう。


「いつか絶対家を出て、立派な冒険者になってやるんだ!」と笑う彼女の目は、力強く輝いて見えた。


 彼女は幼い頃から剣の天才と呼ばれていた。そんな彼女に憧れて僕も剣を取るようになった。

「ちゃんと見てる? 握りはこうで、力を入れずにすっと振り抜く!」

「フンッ!」

「違うって!ガチガチになりすぎ!とりあえず握りと力抜くところだけでいいから」

「セイッ…痛ッ!!脛打った!!」

「……」

 僕の腕はまるで話にならなかったが、それでもよく付き合ってくれた。僕ができるようになるまで何度でも手本を見せてくれた。


 村の外れにある小高い丘で、僕たちはよく未来の話をした。


「いつか二人で世界中を冒険しよう!」

「……僕が弱いままだったら?」

「その時は、私が守ってあげる!」


 絶対にそうはなるまいと、強くなることを心を誓った。



 僕が9歳の時、彼女は家の都合でより大きな都市へ越してしまった。

 それからしばらくして僕は冒険者となり、のらりくらりとダンジョンに潜って日銭を稼いでいた。


 彼女とは本当に偶然、同じダンジョンで再会した。


「カズト……?カズトだよね!?」

「アイラ……!?」

 昔と変わらない口ぶりで話す彼女は、まるで太陽のように眩しくて目が当てられなかった。


 しばらくみないうちに彼女はずいぶんと立派な冒険者らしくなっていた。しなやかな体躯は無駄なく鍛えられ、軽やかに剣を振るう姿はまるで舞うよう。

 使い込まれた鎧とは対照的に、鎧の隙間から覗く白い肌は気高くも儚げで、かすり傷一つ残っていない。

 あちこちに無惨な傷跡を残す僕の体と対照的で、彼女のそれは圧倒的な技量の証明だった。


 僕と肩を並べるなんて本来あって良いはずはないが、彼女にパーティ結成を打診されて断れるはずもない。

 僕はそうして背伸びをした結果、1階層で、彼女の見る前で無様に気絶して今に至る。


「大丈夫!?」

「うわぁ!」


思わず挙動不審にのけ反った僕は、振り返ってしまったことを後悔することになる。いや、その瞬間は後悔する暇もなく、ただ頭が真っ白になった。


「は?」


彼女の頭上に刻まれていた数字は――――――511000000だった。

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