第11話 おかあさま
志織と旦那さんを乗せた車は大きな門をくぐって、旦那さんの家の玄関前に着いた。白い壁に群青色の屋根の洋風邸宅だった。
運転手によって車の扉が開けられ、志織は旦那さんに手を引かれて車を降りた。
玄関の前で、洋装の婦人がふたりを出迎えた。
「おかえりなさいませ」
婦人は旦那さんに恭しく頭を下げる。
「この子ですね」
婦人が志織を見て言った。
「ああ、今日からよろしく頼む」
旦那さんがそう言うと、婦人は前屈みになって志織に顔を近づけ
「初めまして、志織ちゃん」
とにこりと笑った。
「初めまして。志織です」
志織もすぐに応える。
「まあ、きちんとご挨拶できるのね。偉いわ。これからは私のことを本当のおかあさまだと思って、遠慮しないで過ごしてちょうだい。これから仲良くしていきましょうね」
この人が新しいおかあさま?志織はじっと婦人の顔を見た。優しそうな笑みの中に何か冷たいものが宿っているのを感じて、志織は思った。ああ、この人も悪いおかあさまだ。前のおかあさまは失敗してしまったけれど、この人は良いおかあさまになってくれるかしら?
旦那さんに促され家の中に入ろうとした時、志織は少し顔を上げて誰にも気づかれないように小さく頷くと、心の中で呟いた。
『はい、おかあさま』
志織の背後で白い霞のようなものが揺らめいた。
終
おかあさま 武儀 みずき @MugiMizu
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