バズれ!伝説の配信者 桃太郎
むー社長
バズりたい! そうだ、鬼退治しよう!
第1話
「……おい、嘘だろ」
俺はPC画面を見つめたまま、思わず呟いた。
そこには、目を疑うような数字が並んでいた。
視聴回数:0
高評価:0
コメント:0
「なんで俺の動画、誰も見てねぇんだよ!!!」
俺はマウスを握る手に力を込めた。クリックする指先がじっとり汗ばんでいるのがわかる。
「普通、自分で開いても1回ぐらいカウントされるだろ!? 俺がクリックしたのに、再生数0ってどういうことだよ!!」
喉がカラカラに乾いているのに、体の内側だけが熱い。
無駄に早くなった呼吸を意識して、ゆっくり整えた。深く息を吸い、長く吐く。
もう一度自分の動画を開く。
「……1回再生。よし、ちゃんとカウントされた!」
そして更新ボタンを押す。
視聴回数:0
「減ってんじゃねぇかああああ!!!」
頭を抱え、机に突っ伏す。
「いや待て、これは何かのバグかもしれない……落ち着け……」
何度かページをリロードするが、数字は動かない。
こんなの、おかしいだろ……
俺は動画投稿サイト「YouTune」で活動している、弱小配信者・
俺の夢は、チャンネル登録者100万人超えのトップクリエイターになること。
……なんだけど、現実は甘くねぇ。
「どうして俺の動画は、誰にも見られねぇんだ……!」
力なく座り直し、投稿したばかりの動画のサムネを見つめる。
そこには、必死にキメ顔でポーズを取る自分の姿があった。
『【衝撃】100円マックを100個食ったらヤバすぎたwwww』
いや、これ普通に考えて誰も見ねぇよな……
自分で上げた動画なのに、冷静に分析すると “誰が興味あるんだよ” という内容だ。
「俺のチャンネル登録者数、たったの44人……」
44人って、1クラスの人数かよ。全員が登録しても1000人に届かねぇんだぞ……!
YouTuneの登録者1000人から収益化できるっていうのに……俺はまだ44人……10分の1以下かよ……
納得いかねぇのは、俺と同じくらいの登録者数だった『しがないゲーム実況者A』が、ある日いきなり10万再生されてたことだ。
マジで何が違うんだよ!?
あいつの動画、普通にプレイしてるだけだぞ!? 実況も大して面白くねぇし、サムネも俺の方が凝ってる!!
なのにアイツはバズって、俺は0再生……何が違うってんだよ!!
それだけじゃない。
俺とほぼ同時期に始めた 『ASMRお姉さん』 は、たった3ヶ月で登録者5万人超え。
「寝る前に聞いてね」 みたいなタイトルで毎日囁いてるだけ。それなのに、視聴者が群がってやがる。
しかもコメント欄は 「尊い…」「今日も最高でした」「結婚して」 みたいな絶賛の嵐。
《コメント欄》
ユーザーA:「寝る前に聞いてます」
ユーザーB:「声が天使すぎる…」
ユーザーC:「今月初のスパチャ投げました!!」
はぁぁぁぁ!? 俺の動画のコメント欄と全然違うじゃねぇか!!!
いや……そもそも、俺の動画には コメントがほぼつかねぇ。コメントがつくこと自体がレアで、ついたとしても大半が批判的なものだ。
視聴回数が少ない = コメントがつく確率も低い。
俺の動画のコメント欄は、基本 「0件」。
過去動画を遡っても、最大で数件ぐらいしかコメントがついてない。
そもそも、YouTuneには 「動画を上げても誰にも見られない地獄」 という問題がある。
有名なYouTunerは投稿すればすぐに再生されるが、無名の配信者はそもそも視聴者の目にすら入らない。
俺が動画を上げても、YouTuneのアルゴリズムに認識される前に消えていく……
さらに追い打ちをかけるのが、「再生数0なのに低評価1」 という怪奇現象。
「なんで俺の動画、誰も見てねぇのに低評価だけつくんだよ!!」
YouTuneには、たとえ再生回数が低くても「自動で低評価をつけてくるアンチ」や「謎のAI」がいるらしい。ちょっとした噂程度の話だ。
「くそっ……せめて再生数2桁の壁を超えねぇと……!」
顔を両手で覆いながら、呟く。
YouTuneを始めたのは、単純に 「YouTunerになれば人生変わる!」 と思ったからだ。
テレビもオワコン、雑誌もオワコン、今は 「個人でバズる時代」 だ。
YouTunerは夢がある……! でも、現実は甘くねぇ……
俺はこれまでに “バズるための動画” を無数に投稿してきた。
だが、結果は全敗。
でも、俺は何も考えずにやってたわけじゃねぇ。
ちゃんと研究して、バズるための努力をしてきたんだ……!
流行ってるYouTune動画の サムネイルの色使い、フォントのサイズ、構図、すべてチェックした。
バズってる奴らは、サムネで『衝撃!』『ヤバい!』『閲覧注意!』 みたいなワードを使いまくってる。
だから俺も徹底的に真似した。
タイトルもだ。 俺の動画、『【衝撃】100円マックを100個食ったらヤバすぎたwwww』 ってつけたんだぞ。
なのに、0再生ってどういうことだよ!!!
別の動画では、「尺」 も意識した。
YouTuneでは 『10分以上の動画がアルゴリズム的に有利』 って話を聞いたから、無理やり引き伸ばしてみた。
オープニングを長めにして、「これマジでやばいかも……」 みたいな前フリを3分入れた。
なのに、視聴者の反応は……
『【検証】水を飲むだけで10分の動画は作れるのか?』 → 視聴回数:11
《コメント欄》
ユーザーA:「開始3分で水にすら触れてねぇ」
……クソがぁぁぁぁぁ!!!!!
また別の動画では、カット編集も気をつけた。
テンポよく見せるために、「効果音」「ズームイン」「テロップ」 を多用。
いまの時代、テンポが悪い動画は即切られる。
だから、「どこをカットすればテンポがいいか?」 を徹底的に学んだ。
その結果……
『【検証】夜の学校で本当に幽霊は出るのか!?』 → 視聴回数:25
《コメント欄》
ユーザーA:「画面暗すぎて何も見えん」
ユーザーB:「カット割り多すぎて落ち着かねぇ」
ユーザーC:「カメラ揺れすぎで酔った、低評価押しとくわ」
どっちだよぉぉぉぉ!!!
普通に頑張っても、無名YouTunerがバズることはほぼ不可能。
なら、どうする?
「……炎上か?」
一瞬、頭をよぎるが、すぐに首を振る。炎上系YouTunerは確かに伸びる。
だが、下手を打てば 人生が終わるリスク もある。
実際……
『【悲報】マックでバイトしたら店長にブチギレられたwww』 → 視聴回数:79(過去最高)
《コメント欄》
ユーザーA:「店長キレるの当たり前だろw 仕事しろよw」
ユーザーB:「“ブチギレられた”じゃなくて、お前が悪いんじゃね?」
ユーザーC:「てか、これ盗撮じゃね?」
ユーザーD:「普通にBAN案件で草」
ユーザーE:「消される前に記念コメ」
ユーザーF:「低評価押しといた」
冷や汗が背中を伝う。
「……今消したら、“逃げた”って言われる…!」
歯を食いしばりながら、拳を握る。
今すぐ動画を削除したい。
でも、ここで消したら、さらに燃え上がるのは目に見えてる。
俺は喉の奥で乾いた笑いを漏らし、力なく天井を仰いだ。
「まあ、これで登録者増えるかもな……」
口元を引きつらせながら、目は完全に笑っていない。
天井を見上げ、考え込む。沈黙が部屋を満たす。
どこか遠くで、時計の秒針がカチ、カチ、と響いていた。
そのとき、スマホの通知が鳴った。
『都市伝説YouTunerトリ・オブ・ザ・デッド、新動画投稿!』
「……都市伝説?」
ふと、ある考えが浮かぶ。
待てよ……「都市伝説系」って、YouTuneの鉄板ジャンルじゃねぇか……?
どんなに適当な考察でも、それっぽい編集をすればバズるって噂もある。
「バズるジャンルとして安定している」……それなら……!
俺は、とある都市伝説を思い出した。
それは、最近ネットで話題になっている 「鬼ヶ島は実在する」説 だった——。
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