第36話訓練場にて

 お腹がいっぱいになった僕はぽこぽこと街を進む。

 目的はない。というか、この街のどこに何があるのかさっぱりわかんない。


 ちょっと勢いとノリに任せて無駄使いしちゃったから、もういっそ穴掘りにでも出かけるべきか?


 そうとはいえ、そうやって地下を満喫して地上に出たら、もう街はドラゴンに潰されて廃墟となりましたとか言われたら、とてもやるせない気持ちになってしまう。

 もちろん、僕にできることは何もないのだけど。


 そんなことを考えながら歩いていると、遠くの方にわさわさと人が集まっている大きな建物が見える。鎧とかつけている人もいるので冒険者ギルドなどの施設なのだろう。


 わさわさ人がいるので、あえてそこには行かずに裏を回るように壁沿いに歩く。これだけ大きな街だと冒険者ギルドも大きい。


 裏側に回ると壁に囲まれた中に草地の広い敷地が見える。どうやら訓練場として使っている敷地なのか、的や木に棒を吊るしてある。


 くっくっく、壁の隙間から丸見えだよ。

 まあ、秘密の訓練場というわけでもないから、見えたからなんだというわけでもないけど。


 その敷地をしげしげと観察していると奥の方に見知った顔が見えた。

 トマシュだ。


 声を掛けようかと思うが、真剣な顔で的に向かって一心不乱に槍を突いている。

 その威力が半端ない。

 ズドンズドンと地響きさえしてくるほどだ。


 敷地内に侵入してぽてぽてと近づき、一連の動作を邪魔しないように眺める。僕が近づくとトマシュは動作を止めてこちらを振り返った。


「アウグか。まだ逃げてなかったのか……そうか、行き場所がなかったんだったな」

 そう言ったトマシュは辛そうな顔でうつむく。


 正確には僕は行き場所がないのではなく、ただの迷子である。行き場所なら穴さえ掘ればどこにでも行けるのだし。


 だが、僕にはわかっている。このトマシュの苦しみが。いいや、おそらくこの世に生まれ落ちて、その苦しみを解らぬものなどいるものか。


 僕はぽんっとトマシュの肩を優しく叩く。

「辛かったな……」

「アウグ……」


 僕は慈愛の満ちた瞳でトマシュに告げる。

「下痢なんだろ? 無理せず休め」

「違うわ!!」


 トマシュの返答に僕はカッと目を見開く。

「なんだと! すでに漏らしたというのか!? だから、なげきの的当てをここで行っていたと、そういうことかァァアアアアア!!」

「違うわァァアアアアア!!!」


「なんだイライラして……あっ、そうか。便秘かぁー。それなら水をたくさん飲むといいよ!」

「違ぇよ!」

 トマシュは地団駄を踏む。

 怒りっぽくなっているなぁ、カルシウム取れよ!


「トマシュ!?」

 僕らのやり取りが聞こえたのか。建物のほうから走ってきたポッペン……、じゃなくてルーラが慌てた様子で走って来た。


「まさか! おらしの後始末をルーラにさせていたのか、トマシュ!!」

「お漏らしから離れろよ!?」


 駆けつけたルーラはハッとしてトマシュに告げる。

「トマシュ、漏らしたの!? 早くトイレに!」

「違ぇよ!? コイツのタチの悪い冗談だ」

 バカにするでもなく、すぐにトマシュにトイレをすすめるルーラちゃんって天使かなぁ。


 僕は混沌とする状況をしずめるためにクールに声掛けをした。

「まあまあ、落ち着きたまえ」

「おまえが興奮させたんだろぉ……」


 槍を下ろし、その場にどっかりと腰を落としてしまった。


「まあまあ、なにがあったのか。この超絶美形にして大天才の僕に話してみなさい。干し肉食べる?」

「……食う」

 トマシュは素直に干し肉を受け取る。


 ついでにルーラには干しナツメをあげておいた。腹が減っては戦はできぬというヤツだ。


 もぎゅもぎゅと干し肉を噛む。

 ダンジョン牛の干し肉なので、これはこれで美味しいが、先ほどのトンカツとは比べようもない。

 うん、にわか美食家になった気分だ。


「……逃げるアテはないかもしれないが、それでも街を出るなら早めに出たほうがいいぞ」

「そういうのいいから早く事情を聞かせておくれ」


 出るかどうかはそのときの気分で決めるよ。

 言っても無駄だと感じたのか、トマシュは迫り来るドラゴンのことについて教えてくれた。


 闇皇竜やみこうりゅうというらしい。

 こういうとき、無駄に格好いい名前つけるのなんでだ?


 そうボケたかったが、これはわからなくもない。これは人の心の持ち方の問題だ。

 大切な誰かが、もしくは自分が、なんでもないただの巨大なだけのトカゲに殺されるのだと思いたくないのだ。


 闇皇竜という特別なドラゴンが襲って来たのだ、仕方がないと。


 それを聞いた僕の感想を一言で言うと。

 気に食わない。

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