第29話幼き日の約束は思い出の彼方
「ごめんね、アウグ……。ありがとう」
黒髪ロングで辛い世間にも負けず、清楚さと優しさを兼ね備えたミクル姉は目尻に涙を浮かべ僕に告げた。
この国はいつでも出会いと別れが混在している。
僕はイケメン風にミクル姉に告げる。
「いいんだよ、ミクル姉。代わりに僕の童貞は強欲ババアシスターに貰ってもらうから」
「バーバさんも大変だね……」
クラウスもそうだが、ミクル姉も強欲ババアのことを『バーバさん』と呼んでいる。名前がバーバラだったかららしい。
強欲ババアという意味じゃなかったのか、と僕が呟くと強欲ババアにどつかれた。呼び方云々より敬意が足りないと。
失敬な、敬意を込めて強欲ババアと呼んでるのに!
そう訴えるとこめかみをぐりぐりされた。
それはともかく。
ミクル姉が孤児院の騒動を知ったのは、全てが解決してからだ。
もしも彼女が孤児院の
これほどの清楚で慈愛の女神のミクル姉でも、孤児院を救うには足りなかっただろう。
この国は一部の上流国民と呼ばれるクズども以外の人の価値は低いのだ。
それに孤児たちの成人後の未来は過酷だ。自分たちが生きるのでさえ精一杯で、僕が知る限りでも成人した孤児で生活できているのはミクル姉を含め数人しかいない。
それがわかっていたので、強欲ババアはミクル姉だけではなく、成人して旅立った他の孤児たちにも告げずに、全てを自分で解決しようとしたのだ。
僕もいずれは成人し、ミクル姉に童貞を捧げたあとは過酷な社会の荒波に飲まれていくはずだった。
しかし、ここでミクル姉に身請けの話が舞い込んだ。相手は隣の小領地の息子。
穏やかで理知的な彼だが、その反動か、慈愛の女神ミクル姉の魅力にとっぷりハマり、情熱的なアプローチの結果、ミクル姉は嫁入りすることとなった。
身請けといってもミクル姉には、元々借金などはないのでプロポーズだな。娼婦から末端といえど貴族への嫁入りは別段珍しいことではない。
遠く西方の砂漠の国ムーラーン現国母は娼婦であったが、賢母とも知られ国民の支持を得ており、この国でも田舎から結婚相手を娼館に探しに来たりもする。
それというのも隣国メーリベール皇国にて、伝説の性女(誤字にあらず)エルミナにより娼館改革がおこなわれ、交流の場として娼館が王都に開かれ、皇子スケベンがエルミナを正妃として招きその改革を後押しした背景もある。
もっとも、このバラド王国では政治が乱れて、娼婦のみならず庶民はそういう夢物語はほとんどなくなってしまったが。
こうしてミクル姉との幼き日の約束は思い出の彼方へと消えたのだった。
それでも人の欲は果てしない。
僕は失恋の痛みを癒すためと主張し、キャパティやらお金のことなどを強欲ババアに丸投げして、ツルハシ片手に地下世界に突入した。
さらなる地下世界の金銀財宝を手に入れて豪遊することが第一目的だというのは秘密だ!
ちなみにキャパティは置いてきた。
むしろ、付いてくるかと聞いたら、必死になって首を横に振っていたので、強欲ババアにこき使うように頼んでおいた。
孤児院加工組合(僕命名)は加工だけではなく、アニキとグルテンに協力させて、流通や売買にも関わるように指導しておいたから手はいくらあっても足りないはずだ。
孤児院も改築するんだとかで、たくさんの人が来て広い庭に基礎部分を作っている。こんだけの人が動くには金がいる。
金は使えばなくなる。
お金が、お金が必要だ!(切実)
そうなる前に金に金を呼び寄せる仕組みを構築しなければならない。それは金がないときにしかできないことなのだ。
奴隷じゃなくなった僕は奴隷の如く、地下世界の水晶や利用可能な岩石や鉱物をブロック状にして運び出した。
なんて過酷な労働をいたいけな僕に強いるのだー、と訴えるが。
「地下世界にもぐって取って来れるのが、あんたしかいないんだからしょうがないよ。ほら、ヨシヨシしたげるからねぇー、ヨシヨシ」
そう言って、シスター姿になって強欲ババアが適当なハグとともに頭を撫でてくる。
「そんなお手軽と思うなよ!」
でも孤児院の子供たちやエメ姉のためだから仕方ない、仕方ない。
「アウグ……、ちょっと簡単過ぎない?」
強欲ババアにヨシヨシされて地下に潜っていく僕を見て、エメ姉が遠い目でそう言うが仕方ないことなのだから仕方ない。
強欲ババアを含め関係者に、それらの経済や商売における利害関係における注意事項について、三日三晩教育しておいたからなんとかなるだろう。
「あんた、相変わらずなんでそんなこと知ってるんだい……?」
ジト目で強欲ババアに呆れられたが、僕にもわからないし気にしてもしょうがない。
それらのこともある程度、目処が立ったので夢とロマンとお金の欲望のムシが騒いだ僕は少し長めに地下世界を旅することを決めた。
孤独な1人旅だ。
そんな僕を強欲ババアは深い深〜いため息で見送る。
「帰るまでがお出かけだからね」
そう言っておにぎりを持たせてくれた。
僕は地下に遠足に行くのだろうか?
「坊ちゃんなら地下世界も遠足も似たようなもんですよ」
キャパティが僕の心を読んでそう言ったので、強欲ババアにキツいお仕事をさせるように頼んでおいた。
泣いて喜ばれた。
僕はアダマンタイトのツルハシでどこまでも突き進む。スタート地点は第2キャンプ地点の木の牢屋のところから。
いっそキャパティが遭難してた地点から始める方がダイヤモンドなどは期待できるが、金などは確率が下がる。そもそも滅多に出ないからこそ貴金属なのだ。
あとキャパティ地点はどこかでダンジョンにぶつかる可能性がある。そうなれば、僕みたいなひ弱な美少年はあっという間にモンスターの餌食である。
サクサクと掘り進めるが、さすがは貴金属。
そう簡単に僕の手元には姿を見せない。
僕は一服とばかりにその場に座り込み、強欲ババアが作ってくれたおにぎりをハムハムと食べて、冷たい地下水をごきゅごきゅと飲む。
ふっ、過酷な地下世界だ。
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