第26話僕は満たされた

 僕とシスターの心温まるやりとりの最中、おずおずとキャパティは僕に尋ねる。

「あの〜、坊ちゃん。そろそろ説明していただきたいんですが……。坊ちゃんはとりあえず奴隷じゃないんですよね?」


「奴隷だよ」

 ポコンと妻となったマイシスター(姉ではない)が僕のおつむを叩く。


「あんた、まだ言うか。この子はうちの孤児院の子だよ。名前はアウグステイン、私はバーバラ・セリアーネ。ここの唯一のシスターで孤児院を経営してる……してた、だね」


「なん……だって!?」

 僕はマイシスターからの衝撃の真実を聞かされて愕然がくぜんとした。


「なんで坊ちゃんが驚くんですか? ほんとに孤児なんですか? ほんとのほんとは50歳ぐらいの土族の方じゃないんですか?」

「子供にしては随分なエロガキだけど、まだ12歳だよ」


「なんだって!? じゃあ、まさかほんとに僕の奥さんになったのは強欲ババアだったのか!?」

「いつからアタシがあんたの嫁になった」

 僕は強欲ババアと感動の再会とばかりに飛びつく。意外にも強欲ババアは僕を受け止める。


「おっと……、アウグおかえり。帰って来ないから心配したよ」

 いつも通りノリと勢いで飛び込んだのだが、意外にも強欲ババアは優しく抱きしめてくれた。


「強欲ババア……」

「それとありがとね。この孤児院を守ってくれてさ」

 それは噂に聞く母の温もりと呼べる慈愛のこもったものだった。良き匂いがする。


「僕とシスターの愛の巣だからね。あれ? そういえば僕のマイシスターから強欲ババアの声が聞こえるのはなぜ?」

「まだ言うか」







 紫水晶などの鉱物を加工して売り出す計画はいきなり失敗しかけた。

 地下世界で発見した紫水晶を回収するのは僕にしかできなかったからだ。


 できるにはできるが、ツルツルと滑る崖に直下というほどの下り坂を通過し、モンスターも出現する地下世界を悠々と紫水晶を回収して戻ることが難しかったのだ。


「A級冒険者の私が坊ちゃんに引っ張ってもらって、ようやく登れるような穴です。普通の人ではそのまま地下に入っても鉱石の回収なんてできませんよ」

「えー?」

 僕は批判の声をあげたが、どうやらキャパティが言うことが正しいらしい。


 なので僕がせっせと紫水晶を運ぶことになった。

 12歳にこんな労働を強いるとは、なんて奴らだ!


「はいはい、頑張ったらいい子いい子してあげるからねぇ」

 対外向けシスター姿から、いつものくたびれたアラサー風スタイルに戻った強欲ババアは雑に手をフリフリして見せる。


「子供扱いするでない! あ、シスター姿でハグ付きでお願いします」

「このクソエロガキが」

 強欲ババアのジト目いただきました。


 噂では強欲ババアは冒険者姿とか淑女姿とか後2回の変身を残しているだとか、魔王かな?


「アウグ」

「あ、エメ姉」

 エメ姉が僕に呼びかけたので、飼い犬の如くぴょんぴょんとエメ姉に駆け寄る。


 エメ姉は怪我もなく無事だ。エメ姉の隣に立つクラウスは腕に巻かれたぐるぐる巻きの包帯が痛々しい。

 僕が目の前に来ると、エメ姉は唐突に泣き出した。


「あれ?」

 泣かれた、どうしよう。

 それどころか不自由な片腕をどうにか避けながら、エメ姉にぎゅっと抱き締められてしまった。

「……ありがとう、助けてくれて」


「あ、うん。うん?」

「坊ちゃん、なんでそんなテンションなんですか?」


 いつのまにか僕の背後をとっていたキャパティ。

 まさか、これがキャパティ忍術伍の型、アウグ捕獲術だったというのか!?


 ふふふ、エメ姉に呼びかけさせて、この天才アウグスティン様を誘い出すとはなんたる鬼策。この冷静沈着のアウグをもっても防ぐことはかなわぬわ。


 僕はキャパティの問いに答える。

「いやぁ〜、泣く子には弱いというか。結局、僕は遭難してただけだし?」


 遭難からポンコツA級冒険者拾って帰って来たら奴隷解放されていて、美人シスターを嫁にしようと、拾って作った勇者の剣(偽)を売って孤児院を買ったら感謝された。


 うん、よくわかんない。


「うん、うん、アウグらしいよ。ありがとな……、ほんとに、何からなにまで……すまん。俺はほんとに自分が情けねぇよ……」

 エメ姉に抱きしめられつつ困惑する僕。そんでエメ姉の横に立つクラウスにまで漢泣きされた。


 孤児院の子供たちは成人すれば、孤児院を出ないといけない。それは自立を促すというよりも、成人を養う余裕がないためでもある。


 ただでさえ情勢不安定なこの国では孤児は文字通り掃いて捨てるほどいる。その全てを孤児院が受け入れることは不可能なのだ。


 さらに致命的なのが、成人した孤児も働き先は限られている。ミクル姉が娼婦となったのも、そこしか働き先がなかったからだ。


 エメ姉が成人後に働く予定だった飲み屋も、一晩いくらの身体を売ることも含めた店だ。

 クラウスも冒険者か、衛生環境劣悪の鉱山勤務しかない。

 僕も成人後はその道しかなかっただろう。

 2人とも今後は孤児院で水晶加工の手伝いをすることになるので、その未来は回避となる。


 もっとも僕の場合、ツルハシ持って鉱山から地下世界へゴーイングマイフェイ、我が道を進んだことは間違いないが。


「アウルー」

「アウル兄ちゃん!」

「にいちゃーん!!」


 エメ姉とクラウスが泣き出したのを合図にしたのか、子供達がわらわらと飛び出してくる。


 ピム・レム・サム、上から10歳、8歳、7歳、女女漢おんなおんなおとこの僕の弟妹分だ。


 さらに下に5歳と3歳のクム・ヘスの女2人がいる。将来はサムのハーレムかな。

 女が多いのは、単純に幼少期の男は病気にかかって死にやすいからだとか。偶然か事実かは知らない。


「アウルー! ありがとう!!」

「アウル兄ちゃん、凄い凄い! バーンと登場してドドーンとして、ヒーローみたい!」

「にいちゃん、凄いね! バーンとお金払って解決してくれたんでしょ!」


 ああ、賞賛が気持ちイイ……。

 これだ、これなのだ。

 これこそ俺スゲェと言われる現象なのだ。


 ああ、僕の承認欲求が満たされていく……。


 こうして僕の冒険は終わった。


「いや、坊ちゃん。私はこの後どうしたらいいんですか?」

「強欲ババアにでも聞いて?」


 むしろ、どうしろと?


 僕はキャパティのことを強欲ババアに丸投げした。

 強欲ババアは深くため息を吐いた。

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