短編

総角ハセギ

短編

「世に溢れている物語ってせこいわよね。ほんの数行で完結する内容に、大量に補足をつけているのよ」

「ほう。面白いことを言うね」

「だってそうでしょ?重要な文章だけ残せば内容は十分伝わるのに、人物描写だの風景描写だのなんだのって、余計なことをあれこれ付け足していって膨大な文字数になっているじゃない」

「そうした方が物語にも登場人物にも深みが出るもの。当然よ」

「でもよく考えてみてよ。子供のころ親しんだ名作の数々に余計な文章なんてあった?もし赤ずきんちゃんや桃太郎の話に、彼らの両親はこれこれこういう過去があってとか、このまちにはこういう歴史があってこういう地形でしたとか、狼との関係性は実は複雑でとか、桃太郎が桃から生まれてくる瞬間が丁寧に描かれていたりなんてしたら、きっとこれらの物語は今日まで生き残ってこれなかったと思うわ。それによく表記は統一しろとか言われるけれど、このページでは『僕』が『ぼく』だったのにこっちのページでは『ボク』になってますよとかそんなこと、物語を楽しむうえで重要なポイントなの?」

「君が言っているのは子供向けの童話のことじゃないか。原典はもっと長くて内容も異なっていると思うよ」

「そうだよ。それに子供には確かに難しいが、大人は長編なんて簡単に読めるだろう」

「もうっ。わたしが言いたいことが何も伝わっていないのね!大人が読む物語が、複雑な人間関係と緻密な描写に彩られた数百ページの本でなければいけない理由がどこにあるというの?数ページ短いと何か問題でもあるの?いい?良い物語というのはね、たとえ短くても、どんなに描写が雑でも、難しい言葉を一切つかっていなかったとしても人々の心に残るのよ。文字数増やさなきゃ、もっと深い話を書かなきゃ、丁寧に描写をしなきゃ、同じ言葉を何回も使わないようにしなきゃ、矛盾しないようにしなきゃ、話の筋を通さなきゃとか考えちゃダメ!そんなこと気にしながら物語を書いても、それって本当に作者としてあなたが書きたかったことなの?伝えたいこと、書きたいことだけ書けばいいのよ。その自由があるでしょ。だって、あなたが今書いているのは他の誰のものでもない、あなたの作品なんだから!」

 ふう。これで良し。何とか文字数を増やせたぞ。

 え、出版するにはまだ全然足りてない?

 人物描写がなくて感情移入できない?

 背景が全くわからない?

 これじゃ売れない?

 ・・・・・わかりました、もっと書き足します。・・・ええ、はい。売れる話を書きます。・・・はい、失礼します。

 はあ。きつい電話だった。今から書店に行って買ってこないとなぁ。読み込んで真似して書かないと。売れる短編の書き方についての本・・・・・・。

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