第4話
そして私は自分でも驚くほどすんなりと、黒い影との日常を受け入れた。
朝起きて家事を始めると、黒い影が目の前を横切る。私はおはようと黒い影に声をかけて、家事を続ける。
家事がいったん落ち着くと畑の手入れをする為に庭に出る。戦争中に少しでも足しになればと作った小さな畑だけれども、夫が帰って来た時に少しでも多くのものを食べてもらいたくて、ずっと続けていた。
たまに手を止めて家の方を振り返ると、窓辺に黒い影が見切れた。
それが終わると繕い物の仕事に取り掛かる。戦争中から配給は遅配や欠配が続いていたから、これも少しでも家計の足しになればと始めたことだった。
外地からの復員が進むにつれ、夫と同じように戦争中に消息不明となったにも関わらず無事に帰って来た人がいるという話を耳にするようになり、夫もきっともうすぐ帰って来るに違いないと思うと、針仕事にもよりいっそう精が出た。
針仕事をしていると、決まって黒い影が後ろに立っているような気配を感じた。私の仕事を見守ってくれているような気がして、嬉しかった。
そうして夜遅くまで仕事をして、おやすみなさいと黒い影に声をかけてから床につく。たとえ黒い影が見えなくても何処かしらに気配を感じて、私は安心して眠りについた。
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