影と暮らす

武儀 みずき

第1話

 夫が出征してから、もうすぐ四年になる。出征して半年後には夫からの手紙は途絶え、戦争が終わってもその消息は分からないままだった。


 私は幸いにも空襲から焼け残ったこの家で、ひとり夫の帰りを待っていた。

 夫が出征してからというもの、私は暇さえあれば家の隅々を掃除してまわった。夫がいつ帰って来ても良いように常に綺麗にしておきたかったこともあるけれど、掃除をしている時は自然と心が落ち着くからだ。


 廊下の雑巾がけをしていると度々、黒い影のようなものが目の前の床板に映り込んだ。それは靴下を履いた人の足先のような形で、私が顔を上げると消えてしまう。

 でも、そこには誰かが立っていたような気配が確かに残っていて、私は声をかけた。おはようとか今日も良いお天気ねとか。


 今にして思えば、私はきっと、どうかしていたのだ。



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