第35話
「ほしなん、あの2人、上手く話せてるかなぁ。ちょっと無理やりすぎた気もするし」
「ほしなん言うな。まぁ大丈夫だろ。たぶん」
「そんな投げやりな」
星科さんが後のゴンドラから目を離し外の景色へと目を移す。
私もそれに習った。
「アトラクションほとんど周ったけどまだ日が高いね」
「あんまし大きい遊園地でもないからなここ。夏至も近いし」
「……」
「……」
ゴンドラはまだ登りを続けている。
どうしよう。
音無さんの前では『星科さんと話がある』なんて言ったけど当然嘘なわけで二人きりで何を話せばいいのか分からない。
最初の接点的に勉強の話だろうか。
いや今、期末テストの話とかされたら私が死ぬし辞めておこう。
「長南ってさー。音無のこと好きだったりした」
「んー……はい?」
この人、今なんて言った。
慌てて視線をゴンドラ内に戻すと確信めいた彼女の視線とぶつかった。
「……それって恋愛的な意味?」
「そうそう」
様子を見るに本気で言っているみたいだ。
「いや、違うけど」
「えっ?違うの」
星科さんは「でも、入学してからずっと仲いいじゃん」なんて言って話を続けようとする。
そんな彼女に大きめのため息が溢れる。
「私と音無さんはただの友達。よくないよ、そういう詮索」
「……それは……ごめん」
私の不機嫌さが滲んだ声に気まずそうに目を伏せる。
本気で怒った訳でもないのに気落ちさせてしまった。
いつものように軽く笑って済ませると思ったのでこの反応は予想外だ。
そこに彼女の歪みをみた気がした。
「まぁ音無さんが可愛いってのは私も分かるけど、最初話しかけたのは席がちょうど後ろで後、ちょっと心配だったからだよ」
「心配?」
「うん、最初顔見た時辛そうに見えたから。今はその理由も少しは知れたけど」
「もしかして、長南ってめちゃくちゃいい奴?」
「逆に星科さんの中の私ってどんなイメージだったの?」
「それは……」
そこで言い淀まるのは、相当酷いイメージを持っていたと言っているようなものじゃないか?
「……裏口入学?」
「してませんが!?」
なんだその予想を真上方向に突き抜けていく回答。
これでも中学時代はクラス委員長も務めたことがあるのだが。
その余りの言いように思わず嘆息する。
「星科さんは修学旅行で鹿せんべい食べてそうだよね」
「いやギリ食べなかったけど」
どうやら私の中の星科さんのイメージ像は概ね正しかったらしい。
故に先ほどの歪みが気になった。
「そもそも、仮に私が音無さんのこと好きって言ったらどうするつもりだったの?」
「それは……恋愛相談的な?」
「入学時から告白断られまくっている星科さんが?」
「それは……そうなんだが」
再び彼女が目を伏せる。
その目はどこか悲しそうで
そうだクラスに、もう一人心配な人いたんだった。
「はぁ」
なんだかさっきからため息をついてばかりだ。
「外見てようよ。せっかくの観覧車なんだし」
席を隣に移すと背中が丸まっているからだろう彼女の姿が小さく感じる。
「ごめん、いろいろと」
景色がゆっくりと下降し始めた頃星科さんがと呟くように言った。
「別にいいよ。まぁ裏口入学には流石に傷ついたけど。クラス委員長だって務めたことのある優良生徒なんだよ。私っ」
「ほんとすいません。でも素直に意外だ」
「綾ちゃんみたいに一人で何でもこなせるタイプじゃなかったけどね」
「綾園はスペックがバケモノじみてるから」
その若干酷い言われように思わず笑ってしまい当の本人がいるであろう方向に目を向ける。
そのバケモノスペックの彼女でさえ好きな人の前ではあぁなってしまうのだから恋と言うものきっといいものだろうと思う。
「まぁそもそも恋愛感情とか分かんないだけどね」
少し羨ましさを覚えながら私は一人ごちる。
「……長南さ……」
「ん?」
「……いや……なんでもない」
「そう」
せっかくいつもの調子を取り戻してくれたと思ったのにそうして彼女は再び黙り込んでしまう。
「ほしなん?」
「何?」
「なんでも」
ゴンドラが地表に降りていくまで私たちはじっと後のゴンドラを眺めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます