フォンスの短いお話

季節風

第1話

「我がダイラム家の後継者はウノームとする!」

 壇上にて高らかに宣言する中年程の男性の表情は明るい。

 その横には何の感情も感じさせない無の表情をした茶髪の男児と、その男児を見下すような顔をした金髪の男児がいる。

「ウノーム、何か言って差し上げなさい」

「はい父上!僕はウノーム・ダイラムです!よろしく願いします!」

 ウノームと呼ばれた男児は子供らしい元気いっぱいの挨拶をする。

「……では皆、今宵の晩餐会を楽しんでくれ!」

 ウノームの挨拶に満足げにした男は、そう言ってパーティー前の挨拶を終えた。


「パパ!これ食べたい!」

「そうか!じゃあ取ってあげようか!」

 食事を行うことのできる時間となり、ウノームとその父は次々来る挨拶の合間に軽く食事をしている。

 その後ろには何も話すことなどなく、一人の男児がいるが誰も話しかけたりなどしない。本来ならば、その男児こそがダイラム家の後継者であったはずなのにだ。


 この少年の名はフォンス・ダイラム。ダイラム家の長男である。

 父とは違う茶髪で生まれたことと、先日与えられた『スキル』によって公爵家であるダイラム家の後継者として認められなかった少年である。

 ただ、仮にスキルがよかったとしても後継者にはなれなかったと本人の感じれるほどに、腹違いでありながら同じ年に生まれたウノームを父親は溺愛していたのだが。

 母親がウノームは他国の伯爵家、フォンスは自国の侯爵家であるためなのかもしれない。

 生まれたときからメイドも碌につけてもらえず、ウノームが起こした事件は全てフォンスがしたことになっているので他家からも評判が悪いのだ。


 晩餐会兼後継者発表式が終わったその日の夜、フォンスは父親に呼び出されていた。

「フォンス、今日のパーティーでの態度は何だ?何も話そうとせず、ウノームを讃えようともしなかった。お前はウノームの引き立て役としてこれからも徹しろ。これからもウノームが起こした事件も事故もお前がしたことにするからな」

 自身の子に対して、とても辛辣な態度を取っている父親だが、フォンス自身はこの父親に対して一切の情は無いので聞き流している。

「相変わらず不気味な奴だ!もういいさっさと自室に戻れ!」

 うだうだと流れてくる父親の声を聞き流していると、ようやく部屋に戻っていいといわれたので戻る。


「フォンス様、本日もよい天気ですね。今日も私が起こす前に起きていただきありがとうございます」

「たまたま起きただけだ。メルティ、おはよう」

 お付きのメイドである男爵家の五女メルティに微笑みながらフォンスは今日も朝食を食べるための部屋へと向かう。

 メルティはこの屋敷において、フォンスの数少ない味方なので表情は柔らかくなる。

 しかし、食事の部屋へと進むにつれてまた表情が無となっていく。

「ウノーム、今日のご飯は美味しいか?」

「勿論だよパパ!」

「貴方はこの家の後継者なんですから、たくさん食べてくださいね」

 そして目の前で繰り広げられている家族ごっこを目に入れながら目の前の三人とは違い、残飯のようなものを食べ終える。いつものことだ。

「そうだ、フォンス。お前の婚約者だが、お前は完全に後継者ではなくなったからウノームの婚約者にすると決めたぞ」

「本当!?あんな美しい子はフォンスなんかにはもったいないから当然だね!」

 いつの間にかフォンスの婚約者はウノームの婚約者になることが決まっていたが、フォンスとしてはどうでもよかった。2年前に婚約したのだが、ウノームが起こした悪事はフォンスのものとなっていたので婚約者に嫌われているようであったことが無かった。そのため、フォンスとしてはその子の顔も名前も知らない。ウノームが知っていることには驚きだが、そんなに欲しいのならいいのだろう。

 フォンスは何の反応もせずに、自室へと戻っていった。


 フォンスにとって自分の家族とは敵でしかなかった。

 産まれてすぐに父親に会った際に直感的にこいつは敵だと理解した。

 ウノームもその母親も敵だと一瞬で分かったので極力接しないようにしていたのだ。

 フォンスの母はフォンスを産んですぐに亡くなったので、フォンスにとって母というものがよく分からない。

 碌に貴族としての学習もさせてもらえなかったが、メルティに教わることで何とか貴族らしいふるまいも出来ているといった具合であった。

 そのため、フォンスにとって信頼できる存在というのはメイドであるメルティしかいない。ある意味で言えば家族愛とも呼べるだろう感情をメルティには抱いているのかもしれない。


 そんなことを考えながら部屋に着いたフォンスは、メルティが淹れてくれた茶を飲む。食事の場で出された茶など何が入っているか分からないので飲めない。

「フォンス様、お疲れ様です。今日はどのように過ごされますか?」

「今日は、スキルの使い方を考えるつもりだ」

 フォンスはそう言うと、メルティを連れて屋敷の近くにある森へ足を運ぶ。万が一にもメルティ以外にスキルを見られないためだ。

 屋敷から1時間ほど歩き、森の深い場所まで入ったフォンスは早速自身のスキルを発動する。

 フォンスを中心に半透明の膜が発生し、周囲100mを覆う。そして一瞬で魔物たちの悲鳴が聞こえてきた。

 フォンスには現在4つのスキルがあるが、どれもダイラム家の現当主に不要と言われていた。

 そのスキルの一つが『浄化』だ。聖職者の中でもスラムや魔物の巣に行くことの多い者が保有していることが多いスキルであり、範囲内の毒性や悪性を浄化するといった効果を持つ。

 フォンス自身の魔力量の多さとあるスキルによって効果範囲は最大1㎞にもなり、魔物ですら範囲に侵入すると浄化の力で蒸発するという効果になっているが、他の保有者では触れた者の病気や毒を治す程度の効果にしかならない。そのため、ダイラム家当主はこのスキルをゴミだと思っている。

 次にフォンスがスキルを発動すると、緑のオーラが放たれ周囲の植物が活性化し始めて成長を始める。

 『豊穣』というスキルであり、農業や林業を行う者が持っていると役立つスキルであった。効果としては範囲内の植物の成長を促進するといったものだが、これもフォンスの魔力量のせいで効果範囲と効果量共に向上していた。

 フォンスが使えば1haの土地の野菜を数秒で実らせる程だが、普通は植木鉢の植物の成長をわずかに上げることしかできない。

 後2つのスキルに関しては、自動発動するタイプのスキルなので任意では使えない。

 『倍増』と『模倣』というスキルであり、『倍増』は自身のスキルの効果を倍増させるスキルである。このスキルによってフォンスが使用するスキルはどれも規格外の物になっている。

 『模倣』については自分の目で確認し、スキルの所有者に許可をもらうことでそのスキルの劣化版を得ることが出来るといったものだ。このスキルも『倍増』の効果によってそのスキルそのものを得ることが出来るようになっている。

 フォンス自身が初めから所有していたのは『倍増』と『模倣』であり、『豊穣』は領内の農民の畑仕事を手伝ったら得たスキルで、『浄化』は数少ないフォンスの味方である修道女が持っていたのをコピーさせてもらった。


「フォンス様、やはりその『倍増』というスキルは恐ろしいですね」

 メルティとしては何度かフォンスのスキル発動を見ていたのだが、日に日に効果が上がっているので恐ろしさを感じる。しかし、それと同時に自身のスキルをフォンスに模倣してもらいたいという思いも出てくる。

 ただ、メルティのスキルは危険性が高いためにあまりフォンスも欲しがらない。

 メルティのスキルは『溶解』。自身の腕からオーラを放ち、触れた非生物を溶かすという効果を持つ。フォンスはこのスキル自体は役立つと感じてはいるのだが、『倍増』によって効果が増すとどうなるかが分からないので欲しがっていない。


 その後、何度かスキルの確認をしたフォンスは浄化した魔物の素材を持って街へと出かけて行った。

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