指名手配
OIL(オイル)
指名手配
『懸賞金三千万』
余生を十分に過ごすことが出来るような
破格の懸賞金が掛けられた手配書には
私の息子の顔が描かれている
「母さんに楽させてやる」と言って
上京して10年も音沙汰ないと思ったら
こんな形で顔を合わせるとはね…
ーーーーーーーーー
ある大雨の降る夜に
「ただいま」
そう言って
ずぶ濡れで
クタクタになった息子が
玄関から帰ってきた
頭の中を色々な言葉が駆け巡ったが
"おかえり"とだけ声を掛けた
タオルと替えの服を渡すと
「自首する前に
母さんのご飯が食べたいと思ってさ」
タオルを受け取りながら笑顔でそう言った
もう会うことは出来ないだろうと思い
息子の好物を作るためにキッチンへ向かった
つい奮発して買ってしまった
いいお肉を使おう
安いリンゴしか無いが
砂糖を掛けて焼きリンゴにしてあげよう
もうすぐ完成と言う時に
サイレンの音が響き渡った
驚くより前に
警察が部屋の中に入ってきた
困惑した言葉が出る前に
「オイ!お前!俺を嵌めたな!」
息子が声を荒げて私に怒号を飛ばした
"私は通報なんかしていない"
そう声を掛けようとした時に
十年前に掛けられた言葉を思い出した
『母さんを楽させてやる』
警察に拘束されながら
私に向かって暴言を吐き続ける顔に
少しだけ笑顔が見えた
警察が撤収した部屋には
甘酸っぱいリンゴの匂いだけが残っていた
指名手配 OIL(オイル) @OIL710
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