第17話
私は、東京以外には、住めない。東京以外は私の居場所ではない。高知に住んでいた時にそう確信した。
私は東京人になれているのだろうか。東京人の由梨枝からは、私は同じ人種に写っているのだろうか。
東京人になれたのかどうか、そう考えているうちはまだ東京人ではないのではないか。
ぽっかりと心の中に生まれてしまった疑問は一瞬で消え去って、ワインボトルの栓が開いては、グラスに注がれていった。時間はゆっくりと流れている。
由梨枝と別れたあと、タクシーに乗り込んだ私は、八丁堀徒歩3分の自宅になんとか辿り着き、玄関の扉を開けた。
家の明かりはまだ淡く暖かな光を湛えていて、書斎からはすでに0時を回っているのに、オンラインで打ち合わせをしているような英語が聞こえてくる。
カウンターキッチンの浄水器で水を汲み、一気にそれを飲み干したあと、部屋着に着替え、なんとなくベランダに向かった。
中央区20階建て、2LDK家賃35万円から見える東京タワーはすでに光を失っているにも関わらず、私の目には煌びやかにライトアップされて写っている。
打ち合わせが終わったらしい彼氏が部屋から出てくるのがわかって、室内に戻る。丸の内のバーで出会った彼の家に住み始めてから、もう半年になるだろうか。
由梨枝に言われたことなど何一つ忘れてしまって、シャワーを浴び、シモンズのベットに包まって眠る。
私は東京を求めている。
私は”東京人”。
東京人になりたい私 カワウソランド @kawausoland
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます