第26話 超巨大な敵と言う災厄

 さて。

 準備は終わった。確認も終わった。糸はちょっと不安だったけど……途中で切れたりは、しない、と、思う。先の黒い石がどこかに飛んで行ったら、回収するのが大変だし。

 で。準備が終わったって事は、あの鍵を使ってみるって事なんだけど……安全地帯では、鍵を近づけたりしても、何も起こらなかった。正直、この時点で、あの噂は本当だったんじゃないかな、とは思った。

 だから念の為に、近くのモンスターは、徹底的に倒して回ってから。モンスターの気配もしないようになってから。ダンジョンの、普通の部屋の1つで、扉の絵を出した状態で、あの鍵を近づけたら。



 扉の絵が、ものすごい勢いで光った。



 ……まぁそんな気はしてたから、目を閉じて右腕で守るのは間に合ったんだけど。目を守れたから、光で目がくらむって事もなくて、すぐ周りを確認できたんだけど。

 だから、たぶん、行動出来たというか……間に合ったんだけど。


「っ!?」


 ぶおん、と、風を切る音が聞こえた時。その場にしゃがむんじゃなくて、横に飛びのいた。だって風の音の次は、ドゴン! って、壊れない筈の床が砕ける音が響いたから。大きな武器を振り回す攻撃。その向きは、横じゃなくて縦だった。

 まぁ、飛びのいても、すぐに次の攻撃が来るんだけど。それも避けて、その次も避けて、その次でようやく、その振り下ろし攻撃の外まで逃げて、一息つけた。

 そこで改めて相手を見て、いや、見上げて、その正体を確認した。


「……うーわ」


 武器が振り下ろされた。それはたぶん、間違いじゃなかった。でも、正解でも無かった。だってそれは、何本も持ち上げられた、太いこぶの付いた、大きな……それこそ、それ1本で、テーブルが作れる丸太より太いぐらいの、根っこだったから。

 しかも、その色が黒い。見上げた形は、それこそ、天井を覆うぐらいに広がった木の枝と、葉っぱと、太い幹だったんだけど。その根っこまで全部、とても高い炭みたいな、ちょっとツヤツヤした黒色。

 木の中にも、黒い木があるのは知ってる。けど、これは違う。私も知ってるし、戦った事も、勝った事もあるけど……流石に、この、建物どころか、ビルぐらいなら、入っちゃうんじゃないかな? って部屋を、ほとんど埋めているような大きさは、初めて見る、こいつは。


「ダークトレント……よりによって、元々呆れるぐらい硬い上に、再生力もあって、弱点を狙えないから、端から削って行くしかない奴……」


 要するに、私が相手にしたくないモンスターの中でも、特に嫌な奴だ。しかも、大きくなればなるほど厄介で面倒になっていくやつが、過去最大の大きさで、目の前に居る。

 一応、後ろを振り返るけど、扉の無い壁があるだけだった。横を見ても変わらないし、たぶん、回り込んでも、どこにも扉というか、出入口は……脱出できる場所は、無いんだろう。

 ついでに言えば、ボス部屋からの脱出は、ボスモンスター(通称)を倒さない限り、どんな手段でも出来ない。つまり、帰還のオーブも使えないのが分かってる。

 目の前の、この、硬くてしぶとくて地道にやるしかない、でっかい木をボコボコにするまで、最悪、逃げ場も無いって事だ。


「最悪……」


 ……。ではない、かな。

 ではない、と思う。

 だって少なくとも、この大きさになる強化が入ったレイスだったら、本当に打つ手が無くなるし……。

 いや、魔法のカードを使い切ったら、倒せるだけなら、倒せるかもしれないけど。そこから先、ゴースト系のモンスターと遭遇した時が、地獄になるし……。


「……まぁ、やるしかないか……」


 ただ問題は、私の集中力と、動き回る体力が、どこまで持つかなって事かな。

 一応、ちゃんとお風呂に入って、ご飯を食べて、ベッドで寝て、体調を万全にしてから、挑戦はしてるんだけど。

 前に戦ったダークトレントは、廊下の天井に枝がこすれるぐらいの大きさだったのに、3時間ぐらいかかったし。大きくなればなるほど強くなるのが、トレントだから……この大きさの部屋いっぱい、だと。


「……削れない、って事は、流石に、無い、筈……」


 とりあえず、振り下ろされる根っこの先から、削って行こう。

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