☆追憶2 アキラとアズールの魔法勝負!

草原に立つ二人の影が、傾きかけた太陽に照らされて長く伸びている。風が穏やかに吹き抜ける中、14歳頃のアキラと10歳頃のアズールが向き合っていた。明晰夢の中でこの光景を眺める現在のアキラは、これが自分の記憶の断片であること、そしてこれはアズールと出会い絆を深めた過去の一幕であることを既に理解していた。


「ルールは簡単だ。火属性魔法は禁止。魔法で直接相手を攻撃するのもダメ。そして、相手の帽子を魔法で地面に落としたら勝ちだ」


アキラがそう説明しながら、自分の頭に軽く乗せた帽子を指差した。それを見たアズールは、少し膨れた顔で「ボクを舐めてない?」と挑発的に問いかける。


「舐めてないさ。ただ、俺の実力を知ったら驚くかもしれないぞ?」


アキラの自信満々な態度に、アズールは唇を噛みしめた。その目は、負けたくないという意志で燃えている。


「お先にどうぞ」


アキラが余裕たっぷりに手を差し出す。その態度がさらにアズールをカチンとさせた。


「じゃあ……遠慮なく!」


アズールは孤児院で拾った適当な杖を握り直し、すぐに魔力を練り上げた。風属性の第二階梯魔法、空気砲エアシュートが彼女の手から放たれる。勢いよく発射された魔法の塊はアキラの帽子を狙って一直線に飛んでいく。


(10歳、教育無しで第二階梯を無詠唱ノーキャストか。やはり見込みは間違ってなかった!)


アキラ内心で歓喜しつつ、杖を一振りして風を巻き起こし、軽々と空気砲を左に逸らした。同じ風属性の第一階梯魔法、そよ風ブレスオブエアー無詠唱ノーキャストで発動していなしたのだ。


「ふむ、なかなかのコントロールだ。でも、この程度じゃ俺には届かないぞ?」


アズールの顔がさらに赤くなった。その小さな手から次に放たれたのは、


水流槍ウォータージャベリン!」


 第三階梯魔法、水流槍ウォータージャベリンだった。鋭い水の槍がアキラの帽子を狙って突き進む。


「甘い!氷結化アイシングオブジェクト


アキラは笑みを浮かべ、杖を軽く振る。瞬間、冷たい空気が広がり、水流の槍は凍りついて地面に落下した。アズールは目を見開き、歯を噛み締める。


「次!」


焦りながらも、彼女はさらに魔力を練り上げる。そして光の剣を形作る第三階梯魔法、護封剣ライトセーバーを発動させた。


「これなら!」


光の剣が一閃し、アキラの帽子を貫こうとする。しかしアキラは杖を振り、黒い霧を作り出して視界を遮った。闇属性の第三階梯魔法、闇の霧ダークミスト。アズールの剣は空を切り、彼女は再び悔しそうな表情を浮かべる。


(第三階梯魔法を高速詠唱クイックキャストのみならず無詠唱ノーキャストで発動させるのか。アズールはどこまで魔法の才能があるんだ!)


心の中では狂喜乱舞していたが、勝負の手前アズールに対しては冷静に言葉を並べる。


「ふん、そんな程度じゃ俺には届かないぞ?」


「認めない……認めない認めない認めない!!」


アズールはついに切り札を使う決意をした。右手の杖をアキラに向けて、詠唱を始めた。


「凍てつく嵐よ、氷の竜となりて相手を貫け!氷竜巻アイスストーム!」


水と風の複合属性である氷属性、その第四階梯魔法である、氷竜巻アイスストームが発動し、冷気を伴った巨大な竜巻がアキラに向かって巻き起こる。圧倒的な力を前に、アキラも一瞬表情を引き締めた。


「第四階梯魔法、これが本気か。既に一流の魔法使いじゃねえか。だが――」


アキラは杖を一回ほど空中で振り、瞬時に杖を長杖に変化させた。そのまま右手に持った杖で地面を一回叩くと、アキラを中心として半径3メートルほどある黒色の魔法陣が地面に展開される。


術式破壊ディスペル


その口から放たれたのは、次元属性の第五階梯魔法、術式破壊ディスペル高速詠唱クイックキャスト。次の瞬間、氷竜巻が跡形もなく消え去った。


呆然と立ち尽くすアズール。その隙を見逃さず、アキラは風の第二階梯魔法、空気砲エアシュート無詠唱ノーキャストで放ち、アズールの帽子を地面に落とした。


「俺の勝ちだな」


杖を下ろしながらアキラが微笑む。その言葉にアズールは目を丸くし、しばらく固まっていたが、やがて小さな声で呟いた。


「ボク……負けたの……?」


「ナイスファイトだったよ。お前、本当にすごい魔法の才能の持ち主だな」


アキラが心からの称賛を送る。しかし、アズールは悔しさのあまり涙をポロポロと流し始めた。


「ちょ、ちょっと待て! 泣くなって! わ、悪かったよ!」


アキラが慌てふためく姿を見て、アズールは涙声で「名前は?」と問いかけた。


「アキラだよ」


その答えに、アズールは目元を拭いて「じゃあ、アキくんね」と言い、微笑んだ。アズールは怒ってる顔も可愛いが笑うともっと可愛いんだな、とアキラは心の中で感想を口にしていた。


「……アキくん?」


「うん、アキくん。あとボクのことはお前じゃなくてアズールって呼んで」


その呼び方に疑問符を浮かべながらも、アキラは苦笑した。


「ボク、アキくんに勝てるまではずっと一緒にいるから!」


そう宣言するアズールに、アキラは挑発的に微笑む。


「先は長いぞ?」


二人の間に確かな絆が芽生えたその時、背後から威圧感のある声が響いた。


「二人とも、何をしているのかな~?」


振り返ると、そこには笑顔だが恐ろしく迫力のあるシスター・レティシアが立っていた。アキラとアズールは同時に「すいませんでした!」と声を揃えた。シスターを怒らせてはいけないのだ。


そして次の瞬間、アキラの意識が現実へと引き戻された――。

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