荒くれ者と剣の世界2
ギルドの会議室には、依然として静かな緊張感が漂っていた。
アキラとアリアは、目の前に座るラグナルの話を聞いていた。
巨大な世界地図を前に、ブレイドヘイムの都市国家についての説明は一通り終わり、次は「冒険者ギルド」についての話へと移っていた。
ラグナルは重厚な声で語り始める。
「ブレイドヘイムについてはこんな所だ。次は冒険者ギルドの仕組みについて話す」
アキラは腕を組みながら興味深そうに聞いていた。
「冒険者ギルドは、ブレイドヘイムの五大都市に主要な支部を持ち、その他の村や衛星都市にも小規模な支部が設置されている。冒険者をサポートするため、依頼の仲介やパーティの斡旋、魔物討伐の報酬支払いなんかを行っている」
「ふむ」
「冒険者のランクはFからSSSまでの9段階に分かれている。最初は全員Fランクからのスタートだ」
ラグナルは指を立てて続ける。
「F, E, D, C, B, A, S, SS, SSS……A級以上になると、国や貴族からの指名依頼が入ることもある。つまり、A級以上はその都市や国家から公認される存在ってわけだ」
「なるほどな……」
アキラは話を聞きながら考えた。
(とりあえず、冒険者として金を稼ぐのが一番手っ取り早そうだな)
この世界に来たばかりで、他にできることもない。
「ま、Fランクの間は単純な雑務が多い。金が必要なら、手っ取り早く依頼をこなしていけ」
「りょーかいです」
アキラは軽く頷いた。
だが、ふと気になったことがあった。
「そういえばアリア。お前騎士団所属だったよな?」
「ええ、そうよ?」
「なら聞きたいんだが、冒険者と騎士の違いって何なんだ? どっちも戦う職業みたいなもんだろ?」
「確かに似ているけれど、本質が違うのよ」
アリアはテーブルに肘をつきながら説明を始めた。
「冒険者はギルドや依頼主から仕事を受けて、それを遂行することで対価を得る。言ってしまえば自由なの。戦うのも、逃げるのも自己責任」
「ふむ」
「一方で、騎士は都市や貴族、教会の所属なの。彼らの指示のもとで、街の警護や治安維持、魔物の討伐を行う。つまり、公共のために働く職業ってことよ」
「なるほどな……」
アキラは理解したように頷いたが、内心では(でもお前、騎士団の一員として働いてる感じじゃねぇよな……)と軽く疑問を抱いていた。
とはいえ、口には出さない。
話が一通り終わったところで、アリアがラグナルに向き直る。
「しばらくは私がアキラと一緒に行動して、彼の面倒を見るわ。騎士団の一員としての責務よ」
「ふん、好きにしろ」
ラグナルは腕を組んだまま、無造作に答える。
「ただし、紅翼騎士団の連中に話を通しておけ。お前が勝手に動くと、また余計な揉め事が増えるぞ」
「分かってるわ」
こうして、アリアとアキラは仮パーティを組み、冒険者として依頼をこなすことになった。
数分後、会議室の扉が開かれ、若手のギルド員が入ってきた。
「お待たせしました、サブマスター! 身分証、完成しました!」
ギルド員がカードを持ってくると、ラグナルはそれを受け取り、アキラへと差し出した。
「ま、とりあえず依頼を受けてみろ。しばらくはアリアの嬢ちゃんも付いていてくれるみたいだぜ」
「ありがとうございます」
アキラはカードを受け取る。
小さなカードには『Akira』の名が刻まれていた。
「さて、身分証は手に入れたが……」
アキラはふと呟く。
「……そういえば俺、宿を取ってねぇな」
独り言のように言った瞬間、アリアが口を開いた。
「しばらくは、《月光亭》に泊まっておきなさい。部屋はとりあえず10日ほど押さえてあるわ」
「マジか! 助かる!」
「ただし、食事は別料金よ。今日の夜と明日の朝分は貸しておくけど、あとは自分で稼ぎなさい」
「おぉ……恩に着る」
アキラは感謝しつつも、しっかり稼がなければならないことを自覚する。
「それと、明日からしばらくは朝8時ぐらいに迎えに行くから、冒険の準備をしておきなさいよ」
「はいはい」
アリアがそう言って立ち上がり、解散の雰囲気になる。
軽い頭痛が続いている中ではあるが、アキラはふと心の中で思った。
(なんとか、生きていけそうだな……)
こうして、アキラの冒険者としての第一歩が幕を開けた。
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