第79話
炎のような雄叫びが轟いて、リオー・サンヴォイセンがやってくる。
魔王フロイは勇者リオーの剣を鮮やかに捌き、クネヒァイス、そしてフィに勇者を倒せと命じた。
色欲の魔王クネヒァイスが従えているのは賢者フィだけではない。マゼーの洞窟で一戦交えた錬金術師のチェンマと騎士エラルドまでいる。名のある冒険者をおのれの魔力で従えて兵隊として使うのがクネヒァイスのやり方だ。
「カザン、人は助けろとか面倒くさいこと云うなよ」
ゼアットがそう云いながら竜に変わった。ポポタマ、そしてデアデフイも巨大な魔物の王にその身を変じさせる。
フロイは俺たちに背を向けた。
「ドロヴァデッド、待ってるから必ず来い」
そう云って、もはや遺構のような姿となったアネムカ城に歩き去った。
俺はユーリップの手を一度強く握り、離した。
「カザン、わらわも戦う。よいな」
ユーリップも器用な方ではない。手加減はできないと暗にそう云っている。
好きにさせるかと声があって、現れたのはイッゴ・オゾオドオゾだ。ダンジョンの蓋をする役目を担い、その後どうなったか知らなかったが、どうやらアネムカに居座っていたようだ。
やや窶れたように見えるイッゴは、不敵な笑みを見せ指を鳴らした。ザクザクと足音が響き、フルプレートの甲冑を身につけた大騎士団が姿をあらわした。大楯に大槍といった重装備。次から次に湧いてでて、総勢千は下らない。いや、まだ増える、まだまだ増える。
「俺の目標は魔王、邪魔をするな」
リオーが燃える瞳でそう云った。
イッゴはアネムカを守ろうとしている。誰もがそう思っていた。しかし、この死に損ないの人形使いは本来、魔王復活を試み続けた大神官アゼカイ・ギュンピョルンのお先棒を担いでいた人物だ。
イッゴは大騎士団に命じた。
「皆殺しにしろ!」
騎士団が動き出す。
リオーは一度躊躇し、腰を落とし、何かを振り払うように吠えた。
「ネビー!」
それはリオーとともに旅をし、非業の死を遂げた才気あふれる女魔法使いネブラフィカ・マギランプの愛称。俺には愛称で呼ばれることが嫌いだったと生前の彼女に云われたことがある。
ネブラフィカの魂は今、リオーが握る魂移しの剣の中だ。
剣から炎が上がった。
「いや、鉄の鎧の軍団ならば」
ばりばりと音を立て、炎から雷電に変わる。ネブラフィカは雷火の支配者との異名を持っていた。火と雷の呪文がお手の物であるが故つけられた通り名だ。
リオーが騎士団に突進した。
最終的に騎士団は五千にまで膨れ上がっていた。
一対五千など自殺行為だ。リオーは死に場所を探しているのか。
「ゼアット行け!」
「命令してんじゃねえ!」
緑の龍は俺を吹き飛ばさん勢いで突出した。ポポタマ、そしてデアデフイが続く。
「ユーリップ、夜でも蝙蝠になれるよな」
「もちろんじゃ」
「よし、ちょっと待て」
「待つのか? 竜三匹とはいえ多勢に無勢じゃぞ?」
だから待つんだと云って、俺はイッゴの様子を伺った。イッゴは大騎士団のもっとも後ろで、その動きを見ながら口と手を動かして続けている。
リオーの雷電を纏った剣が騎士の胴を薙いだ。鉄の鎧に通電したようだが、騎士は動きを止めることはない。
「効いていないか、ならば」
リオーは元の通り炎の剣として、周囲に集まりはじめた騎士を炎で薙ぎ払った。火勢に態勢を崩しはしたがやはり騎士たちは無言でまた動き出す。
「リオー、頭を打て!」
俺の声に反応したのかどうか、リオーは目の前の騎士の頭に剣を叩きつけた。面当てがひしゃげるほどの打撃を与えたが動きを止めない。
「もっとだ!」
云われるままリオーは剣を振るう。ついには騎士の鉄の面当てが落下した。
「……これは。どういうことだ、カザン!」
甲冑の中は空洞だった。これは騎士ではない、甲冑そのものが動いていたということだ。アネムカ城の兵器庫に備えてあった甲冑に魔法をかけ、操っているだけのもの。
「ゼアット蹴散らせ!」
ゼアットはうるせえと叫びながら甲冑軍団に襲いかかった。ポポタマは破壊魔法の詠唱をはじめ、デアデフイもゼアットに続いた。
リオーの獅子奮迅の活躍は目を瞠るものがある。過去にともに旅をしていた仲間だが、正直これほどのものとは思っていなかった。それでもやはり相手の数が多い。ポポタマの圧殺魔法も一度に数十の鎧を潰すのが精一杯で、到底追いつかない。しかしそれを操るのはイッゴただ一人。
「ユーリップ、蝙蝠になってイッゴの背後まで行ってくれ」
「それでどうする」
「多くは望まない。この甲冑軍団を止めるのが優先だ」
ユーリップは躊躇した。俺は当然どうしたと問う。
「もし、あの男が死んでしまったとしたら」
「その罪は俺の罪だ。俺が引き取る」
ユーリップは蝙蝠に変わり夜空に飛び立った。
俺は料理人だ。
破壊や争いは飯を不味くする。
リオー、ゼアット、デアデフイ、そしてポポタマ。次々に鎧を破壊していくが、やはり数は暴力だ。あるいはユーリップが魔王の力をいまだ持っていたなら、軽く一掃できたかもしれない。
宙を舞うゼアットの尾に甲冑が数体絡みつき、態勢を崩したところに槍が突き上げられた。
「ゼアット!」
デアデフイが炎を吐こうと口を開けた。その口に甲冑が殺到する。
イッゴはこちらの戦い方を覚えたようだ。的確な指示を鎧人形に与えている。リオーの足も払われ剣が奪われる。
俺は走った。
「ポポタマ、頭に乗るから動くな!」
青い竜の背中によじ登り、首を伝って頭に至る。俺は上着を脱いで、思い切り振り回した。
思い切り息を吸い込み、大きく口を開けた。
「ユーリッっっっプ! 大好きだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
当然このタイミングで気持ちを伝えたかったわけではない。俺の奇行にイッゴがほんの一瞬、動きを止める。それを狙った。
ユーリップがその姿を元に戻し、
「わらわもじゃ」
イッゴの首に噛み付いた。
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