第20話
「ネブラフィカも器ではなかった。長兄も次兄も違った」
灰色の総髪を後ろに撫でつけた額の広い男。大神官ギュンピョルン。アネムカ王国で尊崇を集めている人物だが、彼は回復や解呪、解毒などの祝福の術を持たない。神官であるのにだ。
何故か。
答えはいつだって単純だ。ギュンピョルンの信奉するのは魔王。強烈無比なる邪悪な力を持った魔界の王を心の拠り所にし、一心に祈りを捧げている。魔王を信奉する者に祝福の術が与えられるわけもない。
マゼーの洞窟で消息を絶ったパーティの探索をしていた連中が、新たな地下ダンジョンを発見したと冒険者ギルドからの報告があった。
魔王復活には必要なものがある。
魔王の依代となる器。
魔王の魂の入った玉。
ギュンピョルンはギルドに指示を出した。マゼーの地下ダンジョンの解放、依頼内容は探索、条件はB級以上。獲得物は全回収、例外は認めない。
「竜騎士エンデミュート卿に兵を出すよう伝えろ、マゼーの洞窟入り口に兵士を常駐させ冒険者を検閲する」
金と名誉にしか欲はないとギュンピョルンは冒険者を見縊っている。彼らがギルドに持ち込むどんなゴミも、他国のどこよりも高く買い取っていた。冒険者に余計な気を起こさせないためだ。しかし念には念を入れるべきだと思った。ダンジョンでの発見物をくすねようとする不逞の輩が出ないとも限らない。
「魔王の魂はおそらくそのダンジョンにあるだろう。となれば残るは器を得ること。代々魔王の器を継承しているマギランプ、残すはもっとも期待が薄い末弟のみとなったか……」
ギュンピョルンはさらに指示を出す。
町に行け。
町に、
俺は町に出ていた。謝肉祭の時に見てもらった占い師のもとに行くつもりだ。もう一度ゆっくりとスキルを見てもらい、今の戦力を冷静に把握したいと思ったからだ。
マゼーの地下ダンジョン発見の話はもう耳に入っている。
ライホが呪われた場所、その下に広がるダンジョンならば、呪いを解く手段がなにか見つかるかもしれない。しかし、ダンジョン探索の依頼を受領するには冒険者等級B以上が必要とのこと。俺のパーティはつい先頃C級に昇格したばかりだ。
ユーリップが俺の尻をつねった。
「いたっ」
「またライホとかいう女のことを考えておる」
「当たり前だ、俺にはライホを元に戻す責任がある」
「あほうめ」
「なんだと」
「責任などなかろうが」
「ある」
「ない。その女はカザンのパーティを抜け、あの臭い僧侶のとこに行ったのだろう?」
「それは、俺が自分のことを話さないばかりに勘違いさせたせいだって云ったろう?」
「勘違いさせたからと罪を感じておるのか? やはりそなたはあほうじゃ」
「あんまりあほあほ云わないでくれ、本当にあほになった気がしてくる」
「だってあほじゃもの」
云い合いをしているうち、占い師が常駐している酒場に到着した。俺は酒場に入った。
「あら、カザン。今日はいっぱいお連れさんがいるのね」
占い師はにっこりと笑うと俺たちを招じ入れた。飲み客はちらほら見えるが占いを求めに来ている客はいないようだ。
「現段階のスキルの見極めに来ました」
「そ。カザンは本当にスキル馬鹿ね」
ユーリップが吹く。
「あほうで馬鹿。おおうつけじゃな」
「まあ、そちらの美しいお嬢さんも旅のお仲間?」
「お嬢さんはないのう。わらわは三百歳を超えておる」
ユーリップは嬉しそうにしているが、俺もキルシマも心底驚いた。たしかに吸血鬼は長生の種族、不死身だと本人も云っているが、三百歳以上とは。顔には表れていないがジャゴも驚いているようだ。
「拙者が年長であると思っておったが、三百とは参った」
額を手のひらで打つ年相応のリアクションを見せるキルシマを、先ず占い師の前に座らせた。
「カザン殿からでよいのに」
俺は既になにもないと云われている。いや、スキルがあるにはあるが有耶無耶になっている。そもそも戦闘に役立つスキルならばとっくに表立ってきているはずだと思う。と云うか、スキルが欲しくてたまらない男だった俺は、もう自分にスキルがないという現実を耳にしたくなかった。
占い師はキルシマを見つめた。
「……うん。パッシブスキルとして、察知。ジョブ固有スキルは居合。アクティブスキルの剣術はまだまだ伸びしろがありそうね。爆発力はないけど堅実に伸びるタイプ。まだ三十路でしょ、ひよこよひよこ」
そういえばキルシマは誰よりも早く敵の接近に気づくことが多い。なるほど察知のスキル持ちだったかと俺は感心した。それと同時に、やはりとても羨ましく思う。
「それじゃ次はジャゴ」
俺は荷運びだからとジャゴは遠慮した。
「まあ身体の中を覗かれるみたいで気持ちいいものじゃないかもしれないが、俺みたいな変わり者のパーティに入ったんだ、諦めてくれ」
妙な説得をして俺はジャゴを座らせた。椅子に座っても大きい。背中や肩が筋肉で丸い。
占い師はジャゴを見つめる。
「まあ素敵」
ジャゴは戸惑った。
「犠牲。捨身。身を挺して他人を守る。中々見られないスキルね」
「俺はゆくゆくは海運で身を立てたい」
「あら、それじゃあどうして冒険者を? お金の為?」
ジャゴは俺を見た。俺は頷いた。短い付き合いだがジャゴは嘘をつけるような男ではなく、信頼するに足る男でもあると確信している。
「今は金を稼ぎたい。それには俺のような男には冒険者がうってつけだ。そして、カザンとともにいろんなものを見て回り知識を深めたい」
「そうか、確かにあなたはこの国じゃ満足な仕事は得られないわね。荷運び、芸人、用心棒、そして冒険者。いっそのこと私みたいに占い師でもやる? 腕が良ければ冒険者より稼げるし、見聞だって広がる」
「いや。俺はその日が来るまでカザンとともにいる」
「かっこいいわ、惚れ惚れする。アクティブスキルがないというのも珍しい」
ジャゴは椅子から立ち上がった。俺はユーリップを見た。ユーリップは首を傾げる。
「ユーリップ、座って」
「どうしてじゃ?」
「スキルを見てもらう」
「スキルとはなんぞ?」
よくわかっていなかったようだ。
「ざっくり云えば能力のことだ。能動的なものがアクティブスキル、受動的なものがパッシブスキル。ジョブによる職能や、修業や学習で得られたりもする。先天的なものの場合所謂才能と呼ばれたりする。知りたくない? 自分の持っている力を」
「別に」
「そっけないな、おどろきだ」
俺はその言葉通り本当に驚いていた。俺自身がスキルに渇望しているせいも多分にある。
「そ、そっけなくなどないぞっ」
ユーリップは椅子に腰掛けた。途端に占い師は表情を変えた。
「きゅ、吸血? お嬢さん、人じゃないのね。怖いわ。パッシブで超回復のレアスキルも見える。はじめてかも、リアル超回復」
たしかにヨロフトの塔で日光に焼け爛れた肌は既に綺麗に治っていた。
俺は口を挟んだ。
「力もすごく強いけど、それもスキルのせい?」
「……いえ。力系のスキルは見受けられない。単純に種族特性なのかしら。そりゃあ我々人間族より強くできてるわよ、三百歳だものね」
ユーリップは確かに強い。そのぶん弱点も多い。日の光にニンニク。
「みんなそうだけど、今後習得できそうなスキルとかは」
「ううん……。芽が出てるならわかるかもしれないけど。んん? 待って、このお嬢さんまだスキルがあるわね。ええと、さっすが吸血鬼。アクティブスキル変身!」
「変身? なんでもなれるの?」
「それはわからない」
占い師はにっこり笑った。俺たちは顔を見合わせ、にやにやした。変身と聞いてときめかない男はいない。ユーリップは頬を膨らませて横を向いた。
「こ、蝙蝠だけじゃ」
「え?」
「蝙蝠!」
「ああ蝙蝠」
「空飛べたんだな」
「うるさい」
「蝙蝠の姿でも昼はダメのなのか?」
「平気じゃ」
「だったらなんで変身しなかったの?」
「うるさいっ」
「それがわかってれば移動も随分早くなってたのに」
「じゃって。蝙蝠に変身する女などいやじゃろがい!」
俺は笑うしかなかった。
「カザン、最後は貴様じゃ!」
「だから俺は」
すると占い師が鼻にかかった声で云った。
「カーニバルの時は忙しかったから見極めている時間がなかったけど今は大丈夫よ。あの時私は、カザンは既にスキルを持ってるかもって云ったわよね?」
俺はゆっくりと頷いた。
「もう一度、今度はしっかり見てあげる」
占い師はそう云うと俺の顔をまじまじと見つめた。俺は生唾を飲んだ。まるで試験結果を待つような気分だった。
「ううん。アクティブスキルのようだけど……最早習性に近いもののよう。だから見えにくいのかしら。うん、でも、采配? いえ、戦闘中の使用が主なら、軍配、そう、軍配ね。人員を見極め采配するスキルが備わってる」
「どうして俺に……?」
料理は手際が肝心だ。常に無駄なく手際を考えながら料理をしてきたことがそのスキル獲得に繋がったものか。
戦闘に適切な配置や手法を見出すのが軍配ならば、素材を見極め、季節や時間帯、酒の種類、食事をする人間を見て最も適した調理法を見出すのと似ている。
そうか。俺は目がいいんだった。
軍配。
それが備わっている。その意識は俺を変えた。
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