第12話

 ほぼ三日ぶりで家に戻ると窓が割れていた。


 ネブラフィカはギギを燃やしたなどと過激なことを云っていたが、ギギの死骸はどこにもなかった。ギギが逃げ出したのを追いかけ、炎の魔法を行使したのか。


 俺はあれこれ考えるのをやめ、散らかった家具を片付けた。大した家財はないからそれほど面倒でもない。


 上手く逃げられていればいい……。


 無責任なやさしさは時に人に牙を剥く。


 翌朝、俺は懲りることなく冒険者ギルドに向かった。


 冒険者としてみたい夢が、近づいては遠ざかる。何度も打ちのめされてそれでも俺は諦めない。それが俺が生きている証だと思っている。


 ギルドに着き、そのまま地階の酒場に向かった。


「待っていたぞ料理人」


 いきなり声を掛けられた。


「あんたは侍のええと、キル、キル」


「キルシマ。ユベ・キルシマだ。残念だが今は侍ではなくなったが」


 独断で俺を連れ出した罪を問われ、王国軍から除籍されたとキルシマは笑った。


「なんかすんません。俺のせい……?」


「まあそう申せなくもない。ゆえ、拙者を仲間に加えてもらえまいか」


「あ、え? ほんとに?」


 キルシマは椅子に腰掛けた姿勢で頭を下げた。


 侍なら仲間として申し分ない。重装備は出来ないが前衛として十分機能するアタッカーだ。素早さもあり、徳が伸びれば鼓舞などの攻撃支援系バフを習得することもある。


「今は侍の下のクラス、浪人になり下がっておるが」


 使用可能武器は刀や槍、そして弓。


 俺はキルシマをよく観察した。それはもう不躾な目で、完全に値踏みするつもりで見た。


 痩せている。ただ以前の仲間ベルエフとは違い、キルシマの場合は痩せこけているというよりは殺ぎ落とされている感じがする。こよなく酒を愛好しているのもベルエフと似ているが、常に傍には刀を置き、適度な緊張感を保ち続けている。


 よろしくキルシマと俺は云った。キルシマは再度深々と頭を下げた。


「あと二人」


「カザン殿はどういうパーティを目指しておるのだ? 拙者の意見を云わせていただくならば、機動性に優れた方が良い。攻撃や防御に囚われるあまり速度を疎かにするのは好むところではない。戦場では速度こそ肝要」


 キルシマは鼻を鳴らした。


「時にカザン殿、御足はあるかね」


 俺はにやりとした。キルシマもにやりとした。浪人キルシマは年齢は俺より上のようだが、しっかりしているようで中々いい意味で稚気がある。


「拙者は素寒貧。酒が飲みたいが儘ならぬ。カザン殿、とりあえず二人で依頼を受けてはどうだろう。人はともかく飯を食わねば生きられぬ」


 その通りだ。とりあえず俺は、ポケットの中の小銭をテーブルに積んだ。


 キルシマは目を輝かせる。


「今日はごちそうする」


「いいのか?」


「俺はあなたのおかげで命拾いした。その礼だ」


「酒もいいかな?」


 ベルエフは飲んでばかりでまるで食べない人間だったが、キルシマは所謂痩せの大食いであるようで実によく飲みよく食った。基本的に好き嫌いはないそうだが、肉料理の付け合わせに出てくる香味野菜は残すそうだ。


 男二人が賑やかにしてるのを見て、寄って来た人物がある。


 筋肉質な黒い肌、ジャゴと名乗ったその男は港で荷運びをしているそうだ。毎日重い荷物を運びつづけて素晴らしい肉体ができあがったようだ。


「荷運びで冒険者」


 これは変わっているとキルシマは俺の肩を叩いた。


「お、俺を仲間に加えてくれ。あんたならお、俺のような男でもぱ、パーティに加えてくれるかも知れないと聞いてきた」


 朴訥とした口調。せっかく侍、もとい浪人を得てそれらしくなったものが、荷運びの参入でまた変わり種パーティ色が強まってしまう。それにどうも、へんてこりんなパーティを組む男として噂が広まりつつあるようだ。


 楽しく過ごすことが目的ならそれでいいだろう。


 荷運びを受け入れることで、支えになってくれた人たちに顔向けできる冒険者になり得るのか。


 ライホを元に戻すことができるのか。


「あなたは何ができる」


「荷物を運べる」


 それは当然だ。しかし移動することが多い冒険者にとって、ひとつでも多くのものが運べるのはとても重要なことではある。


 ジャゴはかたわらに置いていた大きな背負子を示した。


「大抵のものはこれで運ぶ」


 武器防具回復薬、食料に調理器具、日用品に獲得物。


 キルシマはぐい飲みの中の澄み酒を愛おしそうに口に含んだ。


「して貴殿、得物はなにになる」


「重いものが得意だ。戦槌」


「斧は」


「斧は難しい」


 ただ殴る。ぶん回す。大柄であり体格も素晴らしい。ただの鉄の棒でもこの身体で振り回せば、敵には十分脅威になるだろう。


「ジャゴさん、あなたはどうして冒険者に」


「船を買いたい」


 冒険に出てまで手に入れようとしているのだ、湖で釣りをするような小舟ではないはずだ。アネムカでは、造船技術は国王から勅許を与えられた数人の職人しか持ちえない。門外不出にして他言法度、一子相伝の貴重な技術。


「それは随分途方もない」


 キルシマが声をあげた。市民がどれほど金を積んでもアネムカでは、外洋渡航可能な船を手に入れるのは無理と云えた。


「船を持つことができる国に俺は行く」


「船を買ってその後は?」


「世界を相手に荷運びする」


 いろんな夢があるもんだ。思いもよらないジャゴの言葉に、俺はただただ感心した。


 どうやらキルシマはジャゴを気に入ったようだ。俺もキルシマに同意した。


「これで三人か。料理人、浪人、荷運び。あとひとりをどうするか」


 キルシマはぐい飲みの底に残った酒を呷った。


「攻撃は拙者が担う。ジャゴ殿にも期待しよう。それとも近接攻撃はジャゴ殿に一任して、拙者は弓でも持とうか。まあ買わなければ弓も矢もないが。短期的な回復は薬を使用。長期的な回復はカザン殿に任せる。以上でいいかな? さて補うべきところは」


 俺は思いついたことを口にした。


「キルシマさん」


「キルシマでよい」


「盾の扱いを教えてほしい」


「拙者が、貴殿に盾を。ううむ、あまり得手ではないが、なるほどカザン殿が戦闘中の、まさに盾役となろうと。いやあ、簡単に身につくものではないとは思うが、それにしたって先立つものが必要だ」


 野郎三人、しばらく出会いの酒場にいたがそれ以上俺のパーティの人数が増えることはなかった。


「とにかく依頼を受けよう、このままだと明日食うものがない」

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