入院中の恐怖体験

七倉イルカ

第1話 入院中の恐怖体験


 小学生のころ、交通事故に遭って入院した。

 

 入院中、回診に来る宮原さんいう看護師が怖かった。

 四十代の女性の看護師さんである。

 毎日、昼食が終わったころに現れ、血圧や体温を測り、小さなヘラで僕の舌を押さえて、口の中をチェックする。

 この時、僕の舌を押さえながら怖い話を囁くのだ。

 「五階の病棟はね、深夜の二時になると、顔の無い看護師が徘徊しているのよ」

 「三階の廊下側の窓には、血の手形がつくことがあるの」

 「外から見ると、屋上に誰かが立っているときがあるの。屋上は立ち入り禁止なのにね」

 少しも笑わず、真面目な顔でそんなことをつぶやく。

 舌を押さえられた僕は声が出せず、ただ目を見開いて聞くしかない。

 そして、口の中のチェックが終わると、薬を渡され目の前で飲むように言われる。

 薬を飲むと、宮原さんはひとつ頷いて去っていく。


 一週間で退院できることになった。

 最後の診察の時、担当医に宮原さんのことを聞いてみた。

 「……え?」

 担当医が怪訝な顔になり、僕に詳しく話すようにうながした。

 その後、大騒ぎになった。

 そんな看護師は、いなかったらしい……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

入院中の恐怖体験 七倉イルカ @nuts05

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ