第2話 少しずつ
「全く、とんだ厄介者を拾っちゃったぜ。
食って寝てばかりで何の役にも立たねえし」
少年が悪態をつく。
老犬は前の飼い主にも似たような事を言われていた。
ただ、全然違うのは。
前の飼い主は悪態をつきながら老犬を棒で打った。
ところが少年は悪態をつきながらちぎったパンを温めたミルクに浸したものを老犬の前に置くのだ。
老犬は不思議に思う。
同じ様な言葉を同じ様なトーンで言っても。
人によってまるで違う心持ちで言っている?
「…よし」
何が?…あ。
わ…めっちゃ尻尾振っちゃってる!?
何で…勝手に…
嬉しい…から?
な…何か恥ずかしい…
でも…
ま、いいか。
少年がどことなく嬉しそうだし(仏頂面だけど)
あ――初めて、だ。
尻尾がこんな風に動くなんて知らなかった。
『嬉しい』を知らなかった。
死んでたら、こんな事知らないままだった――
ヒュッ
うわ、寒い!
風がどんどん冷たくなる。
嫌だなぁ、また寒い寒い冬が来るんだ…
死んじゃえば、凍える様な寒い思い、しなくて済むんだよなぁ…
うぅぅ、寒いなぁ…
体がブルブルだよぉ…
「おい」
「クン?」
「俺は、ルプスだ。
お前は…ソキウス。
ソキウスが今日からお前の名前だ」
「!‥ゥアンッ!」
名前!?
名前だって!!
名前なんて初めてだ!
前の飼い主には『クソ犬』って呼ばれてたけど、ソレって名前じゃないもんね!
嬉しくって変な声出ちゃったよ!
ああ、
死んでたら、『クソ犬』のままだった――
「寝るぞ、こっち来い、ソキウス」
「ゥアンッ!(あ、また変な声に…)」
あれ?でも寝るのはここじゃないのかな?
ルプスが呼ぶんだからと近くまで行ったらルプスにガシッと掴まれ
クルン、
ん?あれれ?
あ、ここはルプスの寝る場所…人間の寝床に近付いていいの?
棒で打たないの?
『犬畜生のクセに』って蹴っ飛ばさないの?
――いいんだ…
信じられないけどいいみたい。
だって今、ルプスに抱えられて寝具の中にいる…!?
「…これでちっとは温かいだろ…」
ルプスの声が耳を撫でる。
だけど返事できない。
だって一気に眠みが来たからさぁ…
温かくてさぁ…
「今日は山での仕事だ。大人しくしてろよ」
「ウァンッアンッアンッ(うん、大人しくしてる!行ってらっしゃい!)」
「…ウン…フン…」
ここへ来てから1ヶ月ぐらい…ルプスは相変わらず仏頂面だけど。
少しずつ分かって来た。
出掛ける時と帰って来た時。
『行ってらっしゃい』『お帰りなさい』って言葉では言えないけど気持ちを込めて送り出したり出迎えたりするとルプスは嬉しそうにする。
仏頂面だけど少し頬が色づいたり目がキラキラしたりするんだ。
『うるさいな、分かったから静かにしろ』なんて言いながらね…
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