キーボードクラッシャーから悪役令嬢転生〜ポーカーテーブルから脱出~キーボードが壊れててもゲームプレイしたい!

室伏ま@さあき

第1話:キーボード破壊

「レイズ。1000ゴールド」

静寂な高級カジノの一室で、向かいに座る大公の瞳が鋭く光る。


(賭け金を上げてきたか)



この世界の通貨でいえば、1000ゴールドは、上級貴族の一ヶ月の収入に相当する。


この世界の住人たちは、メインストーリーではお決まりの台詞を吐く薄っぺらなNPCなのに、ポーカーテーブルに座った途端、まるで別人だ。



私は前世でキーボードクラッシャーとして悪名高いゲーマーだったが、乙女ゲームの悪役令嬢である、レティシア・フォンブラットに転生していた。


本来のストーリーでは、婚約破棄イベントを経て破滅するはずの私だが、転生した瞬間からそんなメインストーリーには興味がない。


それより、この世界に実装されている『貴族のたしなみ』というミニゲーム、その中のポーカーが特に面白い。

ミニゲームは確率調整がされておらず、純粋な実力勝負。これぞ本物のゲームというやつだ。



NPCの連中も、このテーブルに座ると容赦がなくなる。


「レティシア様、いい勝負でしたね」

大公が微笑む。その手には、ストレートフラッシュが輝いていた。


今日で三連敗目。


この世界の貴族たちは、ミニゲームに関してだけは本気(マジ)だった。


今日は特に調子が悪い。

しかし、ここで引くわけにはいかない。

「全財産を賭けましょうか」


賭けに出た瞬間だった。


「フォーカード」


相手の手札を見た途端、前世の悪い癖が出てしまった。

形而上のキーボードに全力で殴りかかる私。


バラバラと散る形而上のキーキャップ。

デジタルなエラー音が頭の中で鳴り響く。



「あれ?」

操作が妙だ。下と左ボタンしか反応しない。


まさか……、キーボードが壊れた!?


これは、まずい。

今のイベント、というか座っているポーカーテーブルから抜け出せないと、トイレにも行けない。

そして最悪の場合、次期皇帝の前で私が……!考えたくもない。


「お、おほほ!素晴らしい手札ですわ!」


「まさか。今日のレティシア様は珍しく弱気ですな?」


挑発的な相手の言葉に、冷や汗が止まらない。

とりあえず下ボタンを長押しして……、負けを認める選択肢に何とか辿り着く。



(そうだ……!!!)



「きゃっ!」

突然、その場に倒れ込む私。周りは慌てふためく。


「レティシア様!?」


「すぐに医務室へ!」


これで強制的にイベントを中断させ、医務室へワープできる。


——気がついた時には、清潔な白いベッドの上。

なんとか脱出に成功し、「ふう……」と、深いため息をつく。



しかし、これからずっと“病人”として生きることになるのだろうか?

確かに破滅フラグは回避できたけど、こんな結末を望んでいたわけでは……。


せめて、キーボードがイカれた状態でもプレイできる攻略法を研究しなくては。



……またポーカーやりたいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る