第1話

それは、本当にただの軽い思いつきだった。

高校三年生の受験勉強期間中の息抜きと高校生最後の夏休みの思い出作りを兼ねて、友人三人と勉強で溜まったストレスを解放しに海に繰り出す計画を立てたのだ。


山でキャンプという案もあったが、海の方が学校から自転車で十分程と近距離であるため、あっけなく海に行くことになった。


日中は補習授業があるため、夏休み最終日の放課後に各々がお菓子や飲み物、花火などを持ち寄る事に決め、最高の思い出になるには十分な程に計画の段階で既に盛り上がった。


実際に当日も放課後になった途端に自転車で海へと繰り出し、薄暗い海を満喫し、持ち寄ったパンや惣菜を食べ、流石にスイカは用意出来なかったが、暗い浜辺でのリンゴ割りは盛り上がった。


スイカより格段に小さいリンゴを流木で叩き割ったあの感覚と浜辺での線香花火の光景は数十年後も思い出す事だろう。


しかし、参加者の一人の沙里が浜辺の片隅に放置された手漕ぎゴムボートを見つけた事により徐々に運命の歯車が狂い始めたのだ。

とっぷりと日の暮れた海が艶めかしい巨大な黒い生き物のように見えたのは、以降の僕たちの行く末を暗示していたのかもしれない。


線香花火をしながら沙里が悪戯っぽい笑みを浮かべ


「帰る前にあのボートで海上お菓子パーティしようよ」


と言った事に反論する者はいなかった。


四人で畳一畳半ほどのゴムボートを浜辺の海水ギリギリまで引っ張り、お菓子やジュースをボートに乗せる。


そして、粗方積み終わったボートを四人で一気に海面まで押しやるとボートはとぷんという音を立て海水に浮かぶ。

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