水面の美女

朱田空央

水面の美女

「メガネくーん! 満月の夜、山の中の湖に絶世の美女が現れるらしいぜ!」

 そう話しかけてきたのはクラスの陽キャ、市川圭太。金髪にピアスというド派手な格好、ケラケラと嘲るように笑うその様に若干の苛立ちを覚えた。

 そしてメガネ君とは僕のことだ。佐々木守男。特筆するような趣味も何もない。正直、冴えない人間だと思う。

「…………そうなんだ」

 オカルトの類……正直僕が確かめてやることもない。それも、あからさまな陽キャに誘われて。わざわざ行くと思うか?

「その……行っても……いいけど」


 その日の夜に行くことになった。市川他陽キャグループとともに。

「ウェーイ!☆」

 絶世の美女が現れるという話。興味を惹かれたのはそちらだ。僕だって思春期真っ盛りの高校生。惚れた晴れたには興味がある。どんな女性なのかは知らないが、姿ぐらいは見ておきたい……。

「いた!」

「えっ?」

 早すぎない!? そんな秒で見つかるものなのか……?

 しかし、その女は不気味だった。白装束に長髪の女性。目鼻立ちは整っているが、その顔に生気はない。舞い上がっていた

「へい! お姉さん! 俺等と遊ばない?」

「そうそう、いい場所知ってんだよ!」

 突っ込んでいった!? 気後れするものじゃない!? こういう類って!?

 コクリと頷くその女性。いいんだ……?


 その後、ゲームセンターへと駆り出し、特に何もないまま終わった。しかし、最後に彼女が囁いた言葉を、僕は忘れなかった。

「あの三人は……明日、きっと死ぬわ。かわいそうに……」

「…………」

 息を呑んだ。何を根拠に。ふざけるな。そんな言葉が全部逆流し、何も言えなかった。


 翌日、三人の変死体が、水の上を浮かんでいた。その中には件の市川もいた。僕はなぜ助かったのか。分からない。けれどもうその湖には二度と近寄らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

水面の美女 朱田空央 @sorao_akada

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ