第4話 朝の総崩れ

翌朝。

この日は自宅からA校に向かうため、早朝起床でした。


さっと起きたパパが子を起こしに行きました……が、「もぞもぞして起きないよー、どうしよ」と。


疲れでへたばっていたわたしが体を起こすと、ガチャバタンとトイレから物音がしました。


「起きたっぽいね?」「そうだね、声かけてくるわ」そう言葉をかわしてパパはトイレへ。


わたしは眠い目をこすりながら身支度を開始したのですがーーー。


慌てた様子で戻ってきたパパが「まずい、子、泣いてる! 受験無理って!!!」と小声で伝えてきました。


「え!? 昨夜大丈夫だったのに!?!? とりあえず、子の気持ち優先! 最悪、B校は受かってるから、受験終了もやむなし! がんばれるならがんばろう、で!」


A校の受験、できるならさせてあげたい。

けど、一般合格とはいえB校の合格も貰ってるから、子がどうしても無理ならここで終了でもいい。


でも、折れておしまいより、チャレンジして、その結果を見てのおしまいにしたい。

その方が、子の気持ちも区切りがつくと思うし。


いろんな考えがぐるりと一周して、「子の気持ちの立て直しに尽力して、それでもダメなら受験終了する」と、スパンと心が決まりました。


そこからはとにかく受験に向き合えるようにと手を変え品を変え、子に声をかけ続けました。


「今日は絶対大丈夫。昨日見直ししたでしょう。問題全部見てから解き始めたら、できるから」

「算数以外はちゃんとできてたもんね。大丈夫。算数も、きっとできるよ」

「本当に無理なら、B校に行くって決めておしまいにしてもいいんだよ」

「A校、行きたいんだもんね。せっかくのチャンスだし、受けに行こうよ」

「まだ諦めなきゃいけないところじゃないよ、アタックできるよ」

「B校もいい学校だから、合格もらえてうれしかったね。B校にしてもOKだよ」

……


こんなことを繰り返し、トイレの鍵を開けていいか聞き。


開けてくれたので、今度は背中や頭を撫でながら同じことを繰り返しました。


どれが心に響いたのかはわかりませんが、目に涙をいっぱいに溜めながらも「行く。受験する。間に合うかな」と言った子。


わたしは努めて明るく「早めに着けるように準備してたから、よゆーよゆー。ぜんっぜんゆっくり支度しても間に合うよ!」と応えました。


それからは速かったです。

パパが朝食のパンを焼き、わたしは自分の支度と並行して子の支度を手伝い。

子がトーストを食べている間に荷物の最終チェックをして、改めて経路検索もし。


「まだまだ全然大丈夫。多少電車が遅れても間に合うよ。焦らず行こうね」そう言って、母と子は出発。


パパは前日と同じく、B校そばのお店で待機です。B校受けるかわかんないけど!


子は無事、余裕を持って入室し、受験できました。


わたしは前日と同じく、保護者待機室へ行き、前日と同じようにブログを書き、前日よりも早くから祈り始めました。


「子が、落ち着いて、実力を発揮できますように」

「焦らず、問題全部を見て、解けるものから解いていますように」

「子が得意な分野から、たくさん出題されていますように」


そうして時は過ぎ、試験終了。

子はニコニコしていました。


「ちゃんと全部見て、解いたよ!」

「国語で、最近読んだ本が出題されてたよ!」


「よしよし、がんばったし、ラッキーだったね!  んで、午後はどうする? B校、もう1回受ける?」

「受けるー。得意な科目の1科目だけの試験だし。昨日、B校の方が簡単だったから、受けるよ!」


わたし、内心「よっしゃー、気持ち持ち直したー!!!」ってガッツポーズしてました。これで、どんな結果だったとしても、子は「やりきった」って思えるだろうって。


その後、パパと合流して昼食を食べ、子は意気揚々とB校受験に向かいました。


B校は既に一般合格は頂いているので、わたしも気持ちは軽く、待っている間に読書をする余裕までありました(笑)


終えて帰ってきた子は「結構難しかったけど、できたよ!」とニコニコでした。しかし、やはり相当に疲れていたらしく、だんだんと不機嫌に。


「疲れたでしょ。休憩がてら、なんか甘いものでも食べて帰る?」

「……いらないし」

「そこそこ遅い時間だし、地元まで戻って、夜ご飯食べてから帰ろうか」

「はよ帰りたいんだけど」

「あー、眠いとか? じゃあはよ帰って、昼寝かなー」

「結果見てから寝たいんだけど!? それにもう昼じゃないし!」

「は、はいぃ……」


わたし、タジタジ。

子はイライラMAX。


そんな子を宥めすかして、帰路についたのでした。

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