31話 綾乃と二人三脚の練習をする

「今年の体育祭も、クラスごとに紅白に分かれるんだよな?」


 隣でラーメンを食べながら、成田がそう聞いてくる。


「そうみたいだな。例年通りっぽい」


 俺は綾乃が作ってきた弁当を食べながら適当に相槌を打つ。めちゃくちゃうまくて箸が止まらない。


「玲司くんは、何の競技に出るんですか?」


 俺の顔を覗き込むようにして綾乃がそう聞いてきた。


「ん? まぁ、100メートル走とか障害物競走とか、そんなとこだな」

「へぇ、玲司って足速かったっけ?」

「お前よりは速いぞ、成田」

「おい、そこ基準にするのやめろ。俺の運動神経の低さがバレるだろ」

「それはもうバレてると思うけど?」

「ぐぬぬ……!」


 箸をギリっと成田が握りしめる。


 そのやりとりを聞いていた綾乃が、ふと真剣な表情になって俺の袖を引っ張った。


「城咲さん、一緒に二人三脚やりませんか?」

「……二人三脚?」


 俺は一瞬、耳を疑った。


 二人三脚。つまり、俺と綾乃が――足をくくりつけて、一緒に走る?


「いや……悪いけど、それはちょっと……」


 申し訳なさそうに俺は言葉を濁す。


 正直、綾乃と出たいのは山々なんだけど、流石にクラスのアイドル的立ち位置の綾乃とくっついて、二人三脚はマジで他の男子生徒の嫉妬を買ってしまう。


 なるべく波風を立てずに過ごしたいんだ。目立つ競技に出るのは勘弁してくれ。


「えぇ……なんですか?」

「いや、なんでって……」

「城咲さんしかいないんですよね……」


 そう言って、綾乃がしゅんと肩を落とす。


 その仕草が、ズルい。可愛すぎる。


 いや、待て待て! ここで流されるのはダメだ。俺は巻き込まれない人生を送ると決めたんだ!


「でもな……」


 もう一度断ろうとすると、成田が口を挟んできた。


「おいおい、綾乃ちゃんが困ってるのに、それでも断るってのか?」

「いや、でも……」

「他に誰と組む? もし変な男と組んで、無理やり密着させられたらどうする?」

「それは……!」

「玲司、そんなことになってもいいのか? ここで断ったら、綾乃ちゃんは誰か知らん男と二人三脚だぞ?」

「それは……」


 小さく綾乃が呟く。


 俺は、思わず息を呑んだ。


「……マジ?」

「だって、私、城咲さんと組みたいんです」


 そう言って綾乃が俺をじっと見つめる。


「……っ!」


 くそ、可愛い。なんだなんだこの破壊力は!?


「おい、玲司。さっさとOKしろよ」

「仕方ねぇな」


 俺は観念して頷いた。


 その瞬間、綾乃がぱぁっと笑顔になる。


「やったぁ! じゃあ、一緒に練習しましょうね!」

「お、おう……」


 こうして、俺はまた面倒なことに巻き込まれることになったのだった。







 「じゃあ、さっそく始めようか」


 近くにある公園へ来た俺達は、お互いの左足と右足を結んで準備完了する。

 

「はいっ! えっと……まずは紐を結びますね」


 そう言って綾乃はしゃがみ込み、俺と自分の足首をしっかりと結びつける。


 近い。いや、想定はしてた。二人三脚なんだから当然の距離感だ。けど、いざこの状況になってみると、想像以上に密着している。


 最推しと、密着。冷静でいられる方が無理だ。


「城咲さん、もうちょっと寄ってください」

「え?」

「こっちが緩んでるから……えいっ」


 綾乃が俺の足をぐいっと引き寄せる。


「っ!!?」


 距離感が、ほぼゼロになった。温かい。柔らかい。甘い香り。脳がショートしそうだ。


「よし、これで完璧です!」

「……お、おう」


 ヤバい。もうすでにヤバい。何も始まってないのに、心臓がバックバクだ。


「じゃあ、せーので走りましょう!」

「お、おう……せーの!」

「せーの!」


 ――バタンッ!!


 俺達2人は見事に転倒した。


「いてて……」

「いったぁ……」


 綾乃の頭が俺の胸に激突し、そのまま転がる。


「ご、ごめんなさい! 私がタイミング合わせられなくて……」

「いや、俺も最初から完璧にやれるとは思ってなかったしな……気にすんな」


 とは言ったものの、正直ここまで息が合わないとは思わなかった。


「もう1回やってみましょう!」

「よし、次こそは――」


 ――バタンッ!!


「痛っ!」

「きゃっ!」

「おい……なんでこうなるんだ?」

「たぶん、私の動きが遅れてるから……もうちょっと城咲さんに合わせます!」

「お、おう……頼む」


 ――バタンッ!!


「……」

「……」

「もしかして、二人三脚ってこんなに難しい競技だったか?」

「ごめんなさい……」


 しょんぼりしながら、綾乃は膝についた砂を払った。


 気づけば俺たちは、もう10回以上転んでいた。膝は擦りむき、腕にも砂がついている。


「大丈夫か?」

「うん……ちょっと待ってね」


 綾乃はカバンから絆創膏を取り出し、俺の膝の傷にそっと貼ってくれた。


「すまん……」

「いいんです。私のせいで転んじゃいましたし……」

「お前のせいじゃねぇよ」


 溜息をつきながら、綾乃の頭をポンと叩いた。


「でも……私が運動神経悪いから……」

「そんなこと気にすんな。運動神経とか関係なく、俺たちの問題だろ」

「玲司くん……」


 じっと綾乃は俺を見つめる。


 くそっ……また可愛い。


「よし、もう1回やるぞ!」

「……はい!」


 そこから、俺たちは何度も何度も転びながら練習を続けた。

 

 気づけば辺りは暗くなり、公園の街灯がぼんやりと灯る頃。


 俺たちはようやく、まともに三歩進めるようになっていた。


「ふぅ……やっと……」

「はい……!少しずつですが進めるようになってきましたね!」

「次は五歩目指すか」

「はい!」


 こうして、俺たちの二人三脚の夜は、まだまだ続くのだった。


——— ——— ——— ———


ここまで読んでいただきありがとうございます!少しでも面白いと思った方は応援コメントや☆を頂けるとモチベになりますので何卒宜しくお願い致します。


現在新作も連載中です。こちらも合わせて良ければ読んで頂けると嬉しいです。貴族たちの陰謀で左遷された俺は、呪いの館で再会した幼馴染に『もう二度と離さない』と囁かれる「https://kakuyomu.jp/works/16818622171398700224

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