ありきたりな恋の煩い
白川津 中々
◾️
最初から女の子が好きだったわけではなく、好きな人がたまたま女の子というだけだった。
「カナちゃん」
ユミに名前を呼ばれると、ドキリとする。いつからそうなったのかは覚えていない。気が付いたら、彼女の存在が私の大半を占めていたし、彼女が使っている石鹸の匂いが、高く響く声が、丁寧に整えられた髪が、薄く引かれた化粧が、張りがあって、それでいて柔らかな肌が、どうにも理性を狂わせていた。彼女に抱きつきたく、口付けをしたく、愛を囁きたく、衝動が抑え難く……
「……」
「カナちゃん、どうかした?」
不思議そうな顔をしているユミに「ううん」と返す。あくまで友人として付き合っている彼女との関係を壊さないよう、ギュッと手を硬くして、熱い気持ちが外に出ないようにする。好きなのに、愛しているのに、それを伝える事ができず、切なく、辛い。
「一緒に帰ろうよ」
「……うん」
二人、隣同士で歩く。
校門を出て、グラウンドから聞こえる声を背にしながら、用水路が敷かれた広い歩道を並びあう。春と夏の間、透き通る風に僅かな熱を感じ、互いの肌の温度が伝わる。
ユミと帰る時間。
この時間だけが、彼女を独占できる。ずっと家に着かなければいいのにと、いつも思う。
「ユミ」
ふと、彼女の名を呼ぶ。「どうしたのと」聞かれ、「なんでもない」と言うと、笑われてしまって、私も笑った。
本当は、「好き」の一言を伝えたかった。
泣きたいくらいに胸の奥が痛い。
彼女と私は、いつまでも、遠い。
ありきたりな恋の煩い 白川津 中々 @taka1212384
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