第3話 vsマネキン
「げ、お前がゲリラなのか。それを俺が皆殺しにしたのか。解せないなぁ。まあいいや。ハン・ソジュンさんとりあえずよろしく。」
なんだかんだで打ち解けることができた。俺は死んでいるうちにとんでもないことをしてしまっていたようだ。しかし、俺にそんな力はあるか?井上は考えた。レベルは60ちょい、バニシングだって30m四方のものを消せるかどうかだ。ゲームのRPGみたいにどこかで死んで、ここで生き返ったとして、「おお、死んでしまうとは情けない」とか言われんのか。しかもその間の記憶は消えている。これはハン・ソジュンも同様なのかもしれない。まぁ過去のことを考えてもしょうがない。当面、どうすべきかが優先事項だ。
「ソジュンさん。あなた、これからどうするんですか?」
「どうもクソもないよ。とりあえず今、何年何月で、何がどうなってるのか把握するのが先決だろ。」
井上は言われてみて確かにそのとおりだな、と思った。
「じゃあ周囲の探索から行きますか。ここは霞が関ですけど、窓からのぞく限り周囲は廃虚になってるみたいですよ。」
「そうか。じゃあビルから出ることが始めの目標だな。食料はバックパックに詰めて分担しよう。」
ハン・ソジュンはリーダーの資質があるのかテキパキ行動している。
「何かここに武器になりそうなものはあったか。」
「探してみましたけど特に何も。日本は平和ですからね。」
井上は敢えて拳銃は隠した。この筋骨隆々の男に取られる可能性がある。そうなったらおしまいだ。
「都合よく鉄パイプが落ちていたから、とりあえずこれを持っていくか。」
エレベーターは当然通電していないので、ソジュンを先頭に非常用階段を降りていく。非常灯だけついていたので、薄暗いが階段はかろうじて降りることができた。一階までおり、非常扉を開けて改めてビルの中に入ると、太陽光が入り一瞬目がくらんだ。そのまま出入口から出ようとした刹那、フロアカウンターの物陰から上半身下半身とも脚でできたマネキンのようなものが井上たちの前に飛び出してきた。
「うわ!化け物だ!」
井上はマンガでも言わないようなセリフを叫んでしまった。そんな俺をよそに、ソジュンは冷静に鉄パイプをその化け物に振り下ろした。
「ガキッ」
化物は一瞬怯んだが、あまりダメージが入っていないようでソジュンに対峙した。なんだかボクサーのような構えをしていた。脚で繰り出すパンチをソジュンはうまく対処していたが、致命傷を与えられない。ラチがあかんなと思ったのでバニシングで消そうと思ったが、やめた。これこそ井上の奥の奥の手だ。それがバレるくらいだったら拳銃の方が良い。化物の横に回ってハンドガンの弾をぶち込んだ。5発ほどぶち込んだらかなり効果があったようだ。化物は仰向けにひっくり返った。それにソジュンは追撃し、鉄パイプで何発もぶっ叩いた。
化物が動かなくなったところを確認すると、ソジュンは井上の方を振り向いた。
「あのさ、銃があるなら先に言えよ。お前下手くそだからこいつの身体のバラバラな部分に当ててるし、何発か外してるぞ。俺が預かるからよこせ。」
井上はこうなることは想定していたので、素直に拳銃を予備マガジンも添えて差し出した。
「ふん。グロックか。弾数は残り20発というところか。」
さすが工作員。銃にも詳しい。しかし、井上はすぐに異様な気配に囲まれていることに気がついた。今の戦闘の音を聞きつけて化物の仲間に囲まれていた。30匹はいるかもしれない。
「おい、井上!銃はもう無いのか!」
「無いっすよ!」
「先頭のやつらを何とか片付けつつ出口を目指すぞ!お前は鉄パイプを振り回せ!ダッシュだ!」
ソジュンは出口に向かって一直線に走り出した。マネキンの脚を狙ってうまく前方の化物を転倒させている。これなら外に出られるかも知れない。井上は無我夢中で鉄パイプを振り回しながらマネキンを近づけないようにソジュンについて行った。
出口まであと20m、10m、5m・・といったところで倒れていたマネキンに脚を引っ掛け、井上は転倒した。
「うわぁぁ!」
その瞬間、井上はマネキンの群れに覆いかぶさられ、死を覚悟した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます