霧の中にて
某凡人
1話目
ふと目が覚める。
休日が暇で昼寝をしていた
休日にごろごろしながらゲームや通販を見て動画をひとしきり見たあとに寝る
ある意味幸せな理想的な休日を過ごしていた。
それだけのはずだった。
明らかに自分の部屋じゃない
どこかの一般的なリビング。
テレビとかテーブルがあるだけで特に何もおかしいものは無い。
テーブルに置いてある電気ケトルからは珈琲の香りが漂っていた。
匂いに釣られるようにキッチンに向かう途中で何かに躓いた。
勢いのままキッチンの戸棚に頭をぶつけた。
ジンジンとした痛みで目が徐々に覚めてきた。
珈琲の香りと眠気に気を取られて気がつかなかった。
床に自分以外に寝ている事に。
それも4人。
1人はスーツ姿のがたいが良い成人男性
1人は制服姿の白髪の少女
同じ制服姿の黒髪の少女
最後にチェック柄のシャツを着てリュックを持っている細身の男性だ。
自分が起きたのを皮切りに各々目をこすったりあくびをしたりしながら目を覚ました。
「どうも、おはようございます」
「うぉっ!?」「っ!」「うぇえ?!」「こんにちは」
「起きたばっかなのにすいません
自己紹介しませんか?
流石にお互い何者か知らないのも気持ち悪いですし
自分の名前は
普通の会社で働いてる一般人です」
言い終わると白髪混じりのサラリーマン(仮)が立ち上がって口を開いた。
「
32歳、サラリーマンだ」
渋い声が特徴的な大人って感じの人だ。
次に立ち上がったのは白髪の少女だった。
「
趣味で絵を書いてる、ぐらいしか言うことないな。
この子は私の妹」
「
二人ともまだ警戒してるようで少し緊張しているようだ
最後は
「拙者?!
名乗るほどでもないただのオタクにござるよ」
「それで確認なんですけど全員気がついたらここに?」
全員が全員、首を縦に振ったり「そうだ」や「うん」と答えた。
「これって拉致…ってやつ?」
楓が呟く。
「刑法225条で1年以上10年以下の懲役があったりしますねぇ」
オタクが眼鏡をクイッとしてニヤニヤしながらそう返した。
「とりあえず珈琲飲みません?」
「拙者は砂糖があったら飲めますぞ」
「私はブラック飲めなくは無いけど苦手かな、奏は飲めたっけ?」
「私はいいや」
「俺は頂こうかな、目覚ましにちょうど良さそうだ」
砂糖を探しにキッチンに向かうとキッチンには調味料が置いてあった。
砂糖はスプーンが刺さって蓋が開いている。
まるで生活しててそのまま消えたようなそんな感覚だ。
霧みたいに消える人が容易に想像できるがあり得ない
少なくとも今は現実。
そんなファンタジーじみた事が起きるわけがない。
少し違和感が残るものの珈琲を入れて配った。
夏樹が珈琲を飲みながら呟く。
「ひとまず皆、目的が一致した訳だな」
「そうですね」
「「家に帰る」」「会社に行く」
「フィギュアを買いに」「帰りたいです」
「飲み終わったしどうするものか…」
「とりあえずここから出ません?」
「それもそうだ
寝惚けててあんまり頭が働いてないな…
ここが何処か分かればどうにかなるかもしれないが」
後頭部を掻きながら夏樹がドアノブにガチャリと手をかけた。
手をかけたのと同時だった。
キッチンから音がした。
人が動いた、とかの音ではないようで姿は見えない。
人が小指をぶつけた時みたいな音だ。
それに少しずつ犬のような唸り声が混じり始めた。
キッチンから出てきたそれは包帯だらけの大型犬のようにも見えたけど違った。
包帯の隙間からは歯茎が見える。
それも足に、体に、頭に。
頭以外の口からも唸り声が出せるらしく全身にある凶悪な口で唸っている。
例えるならゾンビ系の有名な作品に出てくる犬の腐ってないバージョンような見た目だ。
そんなのが今、目の前で動いている。
「よく出来たロボットですなぁ
これでも拙者、某ゾンビアクションゲームやその他シューティングゲームやってたんである種の感動ですぞぉ」
と言いながらオタクが近づいて手を左手を近づけた。
それは2秒も掛からなかった。
犬のようなそいつは素早く左手に噛みつくと回転しながら引きちぎった。
ワニのデスロールみたいな動きだった。
アニメでしか聞いたことが無いような骨が砕ける音が鳴って血が噴き出る。
「うぉおおおぉぉおおぉ?!!やっばぁあ?!」
「逃げるぞ!」
夏樹がオタクの襟を掴んでドアに走る。
「玄関、こっち!」
ドアを開けた先は玄関だったようで楓が待っていた。
鬼ごっこの時と同じ要領でリビングの扉を勢い良く閉める。
鼻を挟んだのか「ギャンッ!」
と叫んで少し怯んだ。
その隙に玄関から脱出する。
一歩後ろで歯が噛み合う音が響く。
扉は夏樹が閉めてくれた。
更に一瞬遅れて
ドン
と内側から衝撃がドア越しに伝わってきた。
出ると夜なのか辺りは暗く月明かりが辺りを照らしていた。
リビングの電気は付けたまま出てきたからか何匹かいたようで彷徨いてるのが曇りガラス越しにうっすらと見える。
安心したのも束の間、鍵が無いことに気がついた。
そうなれば横に押したら開けられる。
夏樹さんもそれに気がついたようで急いで外に置いてあった箒で咄嗟に玄関を塞いだ。
一呼吸して2人で腰が抜けた。
「なんなんですかねあれ…」
「知ってたら驚かねぇよ」
「オタクさんは?」
「女子2人が手当てしてくれてる」
夏樹が親指で指した方向に街灯に照らされている3人がいた。
玄関から出たと同時にオタクを女子2人に任したようでもう手は何かの布で止血されていた。
夏樹が近寄って話しかける。
「もう歩けるか?」
「う、腕が、腕がぁ血が、血があぁ
この状況で歩ける奴いるの?!」
そう言いつつ傷口を抑えていた。
奏が説得しようと
「肩貸しますんで頑張れません?」
「ムリ、マジでムリ」
「そんなこと言わずに
今動かなきゃどうしようにもないですから
今は逃げなきゃです」
「奏ちゃん…」
そう言うと奏の肩を借りて立ち上がった。
「あの扉長くは持たなそうだよね」
楓が心配そうに一瞥した。
ドンドンと体当たりする音は間隔は長くなってはいるけど心許ない。
家を出た先は緩やかで細い坂道で閑静な住宅街のようだ。
「ところでここ坂道ですよね、どうします?」
「上がるか下がるか、拙者は下を勧めるでござるよ」
傷口を抑え息も絶え絶えになりながらオタクが口を開いた。
「理由は?」
「下にいくと大体の住宅街はコンビニやスーパーがあるものだと思うでなかろうか」
「あぁ、確かにな」
「安全そうではありますよね」
そう言われれば安全そうだ。
下に向かってみんなで進んでいく。
水が流れるように重力に従って落ちていくように坂道に沿って光を求めて進んでいく。
家、家、家
家しかない。
木造で作られた家々が並ぶ。
いかにも過疎化した場所のようだ。
歩いても歩いても同じような景色。
どれだけ進んだか振り返っても霧が出てるのか少し白くぼやけている。
ふと楓が呟いた。
「あれ?これもしかして霧が濃ゆくなってない?」
そこでようやく気がついた。
霧が濃いくなっていた。
まだ薄く出ている程度だけど進む方向はかなり濃い霧に包まれている。
進むしかないけど少なくとも安全ではない。
視界が確保できない中であんな化物と遭遇したらと嫌な想像が頭を過る。
「ここは海沿いなんだな」
夏樹が呟いた。
辺りを見回しても普通の住宅街だ。
これと言って特徴は無い。
「それはどうしてです?」
「潮風が微かに匂うからだ」
「本当だ」
「拙者は鼻詰まりでわからんですな」
言われて嗅ぐと微かに潮風特有の生臭いような匂いがした。
「あれは?」
先頭を歩いていた夏樹が何かを見つけたようだ。
進んでいくと霧が少し薄くなってきた。
自然と付いていくとコンクリートで舗装された道に出た。
どうやら観光地らしく屋台のようなものも並んでいる。
どこが観光地なのかは明白だった。
目の前に池があった。
「ここからか…」
夏樹が言う通り潮風の匂いはここからしているらしく中には海の魚が泳いでいる。
「独特の地形ですね
生け簀ですかね?」
「俺もよく知らん」
他の3人は魚を見て楽しんでいるようだ。
その光景を後目に夏樹に視線を戻したときだった。
夏樹が横に吹っ飛んだ。
トラックに轢かれたかのように宙を舞って池に落ちた。
夏樹を吹き飛ばしたそいつは目も鼻も無い口だけがある白い仮面を付けて黒いコートを着ていた。
急いで池に飛び込む。
予想通り夏樹は意識を失って沈んでいく。
決して自分も泳げる訳じゃない。
けど今、誰より素早く動けるのは自分だった。
夏樹の手を掴んで水面に上がる。
上がる場所は2つ
元いた場所に近い水中にある階段か
遠い方の神社前の水中にある階段か
水面に上がるとそこにやつの姿は無かった。
安心して近い階段に向かうことにした。
息も絶え絶えになりながら陸に上がる。
肺いっぱいに酸素を取り込む。
流石に水泳の授業もろくにしたことないやつが泳ぐようなもんじゃない。
体力も無く地面に伏せる。
遠くで叫び声が聞こえる。
「…!……ちゃん!……お姉ちゃん!」
向こうも何かあったらしく楓が倒れている。
けど体力もとっくの前に限界が来ていたようで目の前が少しずつ暗く全身の力が抜けていく。
他の人から見たらゆっくりでも
全速力で伸ばした手は届くこともなく
暗い沼に落ちるように
意識が落ちるのを待つことしか出来なかった。
霧の中にて 某凡人 @0729kinoko
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