【短編】夢の感触
マジンミ・ブウ
夢の感触
「ごめん、六条さん。ほかに付き合っている人がいるんだ」
ヒカルくんの言葉が、鼓膜に突き刺さる。
「……なんで?」
「ずっと前から。俺、ソラと付き合ってるんだ」
—————はぁ?
ソ
ら
ぁ
?
ソラは私の幼馴染だ。
「だって……ソラは、私の相談を……」
ソラは、私のヒカルくんへの想いを知っていた。ずっと、ずっと、話していたのに。
視界が揺らぐ。何を言っているのかわからない。
私の恋を応援するように、優しく頷いていたソラ。その裏でヒカルくんと付き合っていたのか? 私に微笑みながら、彼とイチャイチャハッピーな青春を謳歌していたのか?
怒りと混乱の中、私は帰宅し、布団にもぐり込んだ。
――殺してやりたい。
そんな考えが頭をよぎった。
◆
気がつくと、私はソラの部屋にいた。
薄暗い室内。窓から差し込む街灯の光が、布団の上のソラを照らしている。私はそっと近づいた。静かに寝息を立てるソラの顔を見下ろす。
この顔で、私に寄り添うふりをしながら、心の中で笑っていたのか?
私がヒカルくんへの恋心を打ち明けるたび、優しく微笑みながら、内心では勝ち誇っていたのか?
怒りがこみ上げる。
「夢なら……いいよね?」
手を伸ばし、ソラの細い首に指を絡めた。
柔らかく、温かい。しっとりとした肌の感触が、妙に生々しい。
こんなにも、リアルな夢。
ゆっくりと力を込める。ソラの身体がピクリと震えた。
目を覚まし、苦しげに足をばたつかせる。叫ぼうとするが、喉が塞がれたままでは声にならない。
「や……め……て……」
かすれた声が、喉の奥から漏れ出る。
だめだよ。夢なんだから。
夢なら、殺すくらいやらせろよ。
じわじわと力を強めると、ソラの動きが鈍くなった。口がわずかに開き、舌がだらりと垂れ下がる。まるで、心の底から疑問を抱いているような形。
「なんで?」
その形に、ふと私は微笑む。
「ヒカルくんが好きだからだよ。」
そう呟いた瞬間、すべてが暗転した。
◆
目覚めると、朝だった。昨日の夢の感触が、まだ指先に残っている。
不思議なほど気分がいい。まるで、長年の憂さが晴れたようだった。制服に着替え、玄関を開ける。
外はざわついていた。ソラの家の前に人だかりができている。
何があった?
聞き耳を立てると、通りすがりの人々が口々に話していた。
「ソラちゃん、殺されたんだって……」
「首を絞められたらしいよ。でも、犯人の指紋も皮膚片も残ってないんだって」
心臓が跳ね上がる。思わず、自分の手を見た。
夢の感触が、蘇る。
【短編】夢の感触 マジンミ・ブウ @men_in_black
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