飴弾を撃ち尽くした夜、海の音だけが残った深海物語
聖心さくら
戦いの始まり
無実の羽ばたきが、笑い声を飲み込んだ。
コーヒーを飲む前に、兄のテリンドルは八歳にして海洋生物のエキスパートだ。
彼はインスタントの銃で、窓から覗くポップな頭を撃つ。
二階建ての実家でテリンドルは籠城している。
その一階のリビングで彼はファニチャーのバリケードを作った。
季節はまさに青き秋が過ぎ、白き夏が始まった頃。
テリンドルは正面にある酒気帯びの玄関に、
その両翼で空を眺める窓に、飴の弾丸を飛ばす。
散った窓ガラス。
感傷的な月光が、砕けた透明な水晶に乗りリビングを照らしている。
水晶の反射光が零度の抱擁だ。
そのハグは荒廃的なリビングを、水中に偽装する。
ライトは三分の一の揺らぎで、水中を泳ぐ。
三十六度のブレスを止めるテリンドル。
笑って照準を定めるその両手には即席の気管銃が七色の弾丸を吐き出す。
子供の食道はせいぜい二十センチ。
そこに入る飴弾は三十バレット程度。
生の食道を拾い上げ、それをトリガーとマズルで飾る。
口らしい器官は高速でカラカラと飴弾を吐き出す。
それは家に入り込むその呪われたバルーンマン。
酷く膨れ上がった顔の怪物を仕留めるには十分である。
テリンドルは食道に飴弾を押し込み連射する。
誰の食道だろうか。テリンドルは弟のフロータルに言う。
「フロータル。大丈夫か」
弟のフロータルはなくなく泣いている。
海の藻屑のように兄の傍で丸まっている。
フロータルは六歳で、日が昇っても沈んでも彼は家にいる。
兄のテリンドルはいつも、その弟の姿を哀れんでいた。
その始まりは季節が四回の逆行をする頃からだ。
「ほら飴弾だ。これで良くなる」
フロータルは未だに蹲ったままだ。
白いパジャマを着たまま、頭を隠している。
テリンドルは弟を慰める。
「なぁ、俺はどうすれば良いか教えろ、フロータル」
黙ったフロータルにテリンドルは嫌気をさした。
バルーンマンに気管銃を向け、その脆く歪なトリガーを引く。
ワラワラ。銃はワラワラと笑った。
「はっは。ははっは。ははっ」
「はは。はははっ。はは」
粘液のトレイルを残し、飴弾は腫瘍まみれの頭をうがつ。
ホワイトとイエローの寄生でバルーンマンの顔面はぷくぷくと膨れ上がっている。
眼。口。鼻。
雅でアグリーな、人間の全特徴を神が隠ぺいしたその規制された頭に、
テリンドルは颯爽と飴弾を打ち込む。
「ははは、はははは、ははは」
家が笑っているように、歓喜の銃声はエコーを発する。
テリンドル。暗い暗い深海のリビングで奮闘する。
歓喜の銃声は家の歓声なのか、あるいはテリンドルの歓声かは、もはや不可分だ。
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