第2話 麻雀のお誘い
3限終わり。ウェブ漫画の更新分をおおかた読みきり、充実した講義終わりの余韻に浸っているとスマートフォンが震えた。
今晩うちで麻雀打たないか、という旨のメッセージが堀川先輩から届いた。相変わらず絵文字もなく淡白な文面だ。一緒に麻雀をする人が集まらなかったのだろう、と憶測する。私の麻雀の腕は高が知れていて、堀川先輩から最初に声が掛かることは早々ないのだ。他に、3年生の瀬良勇人(せらはやと)先輩と、私と同学年の林倫太郎(はやしりんたろう)くんが参加するのだそう。古藤くんの名前が挙がらなかったので、がっかりしてしまう。
「まあ、行きますかねえ。」
呟きながら返信を打つ。独り言のつもりが割と大きな声になってしまったが、講義終わりのざわめきに掻き消された。
大先輩のお誘いとなれば断ることはしないのが熱心な部員というもの。今日はアルバイトの予定が入っていないからという下世話な理由ではない、決して。
集合時間は18時だった。日が延びてきたなあ、と思いながらうろ覚えの堀川先輩宅を目指す。大学の最寄り駅から3駅離れている先輩のアパートは、広くていつも片付いていて、しばしばサークルの飲み会場に献上される。
私のアパートは大学の最寄り駅から先輩宅の反対側に2駅離れていて、一度帰るのも面倒なので本屋で時間を潰して、今に至る。一応、申し訳程度にお菓子を持っていこうと思い立ち、降り立った駅の売店でそれっぽい菓子折りを購入。私ってできる後輩だわ、と我ながら感動していると背後から声をかけられた。
「おい、千佳子。」
恋人でもないのに私の下の名前を唯一呼び捨てにする人物。瀬良先輩。
「わ、先輩お疲れ様です。」
できる後輩なので、挨拶にお辞儀を添える。振り返った勢いが余って、頭を突き出したようになったのは見逃してほしい。
「お疲れ。同じ電車だったんだな。」
「ですね。」
瀬良先輩は小柄で私と背丈があまり変わらない。きちんとセットされた髪と、こだわりを持って選ばられているであろう皺ひとつないシャツが瀬良先輩らしい。
ちなみに私の背丈は一般女性の平均身長プラス2、3センチといったところ。普段から隙なく身なりを整える瀬良先輩に対して、私の服装はパーカーにジーンズと非常にラフだが、大学生のお手本はむしろこっちの方だと信じている。
「あのー、今日私が呼ばれたのって、」
「数合わせだろうな。」
「ですよね。」
今更傷つきもしないが、一応の答え合わせをしてみた。はたから見たら紅一点で麻雀なわけで、何があってもおかしくない夜を迎えそうだが、私のサークルでの立ち位置は今のやりとりからも明白だ。
「今日、古藤が来れなくなって、代打が千佳子なんだよ。」
「うわっ。そういうことかあ。」
「何にやついてんだよ。」
古藤くんに断られて悄げる堀川先輩の姿が浮かぶ。口角が上がってしまう。
「全く、古藤くんはいつも無自覚に堀川先輩を振り回しちゃうんだから!」
しまった。つい声に出してしまった。
瀬良先輩が溜息をつく。
「はあ、また変なこと考えてるだろ。もう置いてくぞ。」
瀬良先輩が本当に進んでいってしまうので、慌てて追いかける。
今日、堀川先輩の誘いに乗った甲斐はもう充分にあったようなものだ。上機嫌に小走りする。
少しだけ夏の訪れを感じる夕暮れで、さらに嬉しくなった。
腐女子ですが推しカプ受けに恋しまして 梅室万智 @machi_ume
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