第五章 特別な子供たち

第12話 鳥色の目

「〜〜♪」


「……?」


 柔らかいものに包まれている。目を開けると、体がゆっくりと揺れた。

 ……身体中が痛い。


「〜〜♪」


 誰かの声が聞こえて耳を澄ましていると、ゆっくりとこちらに足音が近づいてくるのがわかった。振動が少しずつ大きくなっていく。


「あら、目が覚めたのねぇ」


 そこには髪の長い女性が立っていた。その手にはボウルとスプーンが握られている。返事をしようとするが、「ぴぃ」とか細い音が鳴るだけだった。やっと自分の状況を思い出す。崩れる塔から脱出するために力を使って鳥になり、この人に拾われたのだろう。

 僕はまだ鳥の姿のままらしい。絵に描いたものを実現する力はやはり幻などではなく、本物だったようだ。一時はダメかと思ったけれど、なんとか生き延びたようである。


「どうも。アタシはマグエヌ。今日で十八歳を迎える素敵なレディよ……って言っても人の言葉なんてわからないでしょうけれど。まあいいわ、アタシの話を聞いてくれるだけでもね」


 マグエヌ。単語自体がマグーヌに似ているだけではなく、どこかで聞いたようにも感じる。ぼんやりとした記憶の中に見えたのはあの教会だった。彼女と僕は一度会ったことがあるのだろうか。ずっしりと重そうに揺れるおさげを思わず目で追った。そうしているとずいっと顔を近づけられる。


「アナタ、素敵な色の目を持っているのねぇ。取り出して飾っておきたいくらい」

「!」


 バイオレンスな発言に一気に現実へと戻される。とりあえず、この家から早く出た方がいいことだけはわかった。今は体を休めて元の姿に戻ることだけを考えよう。いくら今日が彼女の誕生日だからって、いきなり取って食われたりはしないだろう。


「どうして目が気に入ったのかって? ふふ、教えてあげる。アタシには、心から尊敬するお方が一人だけいるのよ。その人はもうこの世にはいないんだけれどね」


「…………」


「その人の一族の女王のそばにいたっていう鳥があなたのような美しい目をしていたのよ。昔は鳥色の目って言われて、とっても珍しいものとされていたらしいわ。あのお方もその色の目が好きだった」


 その日から、僕はマグエヌと名乗った女性の話をずっと聞かされることになった。思ったよりも僕の怪我はひどいのか、クッションが乗せられたバスケットから動くことができず、逃げ場はない。


「マグウヌ様は、アタシじゃない子供に特別な力を与えた。……許せなかった。アタシはこんなにマグウヌ様のことを慕っているのに。どうしてラクリとエリスが選ばれたのかしら」


 話を聞き始めてすぐに、彼女もまたマグーヌに誘拐された子供だと知った。記憶を辿ると確かに、面影が似ている少女を思い出す。名前に聞き覚えがあるのは、実際に会ったことがあるからなのだろう。


「でもいいのよ。アタシね、霊媒の能力をいただいたの。いつかマグウヌ様を降ろして体を捧げるつもり。そして、彼の望みを叶えてあげるのよ」

「…………」


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