第四章 決意
第11話 特殊隊員
「ええっと、リーエルさん? いいかげん教えてほしいんだけど。あなたは中にいる人と知り合いだったの?」
「…………」
「うーん困ったな」
政府軍に取り押さえられて連れていかれた先にいたのは、私と同い年か少し下くらいの少年少女だった。彼らは私への聴取を任されているらしい。噂で聞いたことがあるが、政府が雇っている子供だけで構成された特殊隊員なのだろう。
確か特殊部隊の名前は”ロークスティア”。彼らは12年前テロリストに誘拐され、特別な力を得て返されたと聞く。処刑を免れた運のいい子供達だ。どうしてラクリくんはこっち側ではなかったのだろうと悲しくなる。
「緊急処刑、びっくりしたよね。オレも急にあんなことになるなんて思わなくてさ」
「…………」
私が黙りこくっていると、目の前にひときわ悲しそうに話す男の子が座った。……多分私より年下だ。もうしかしたら彼も大切な人を今日の処刑で失ったのだろうか。
「オレもきっと君と同じ。家族が東塔にいたんだ」
「はい、私も……。中に……大切な人がいました」
「その人と連絡を取っていたんだね」
「……はい」
「連絡はパールで取っていたの?」
「はい。東塔が燃え落ちるギリギリまで通話を」
パールというのは、私とラクリ君が通話で利用していたSNSだ。現代を生きる人ならみんな知っている。
「そうですか……。辛いだろうけど、その人とのやり取りについてお聞きしたい。オレたちも情報を集めているんです」
切なそうな表情でそう言われ、私はラクリくんから得た情報を話した。普段から飲まされていた薬のこと。調達される食材のこと。……そして今朝の異変について。名前だけは言う気になれず伏せてしまったけれど。
「知っているのはこれくらいです」
「相手の方のお名前は?」
「……教えてもらえませんでした」
「わかりました。今日はこれで結構です。オレが出口までご案内します」
「パンチ、俺も行こうか?」
「いや、オレだけでいい。ありがとう」
パンチと呼ばれた彼は私にペースを合わせ館内を進んでいく。不思議と辛くない沈黙だった。そう感じていると、一歩先を歩く彼の足音が次第にゆっくりになったことに気がついた。
「相手の名前、本当は聞いてるでしょ?」
「え?」
「なんとなく。わざと言わなかったんじゃないかって思って」
「いえ……本当に」
「そっか」
全てを話すか迷った末、私は軽くお辞儀をして進む。死ぬ間際にやっと明かしてくれた名前がすごく神聖に思えて、簡単に言いたくないと思ってしまっていた。
私の返事を聞いて、彼は少し息を吐きこちらを向く。その手には小さな紙切れが握られていた。
「ラクリ」
「!!!」
「その名に心当たりがあるのなら情報を待ってる。何か思い出したら連絡ちょうだい。今日の処刑はどう考えてもおかしかった。政府による大量殺人なんて声もある。その真相をオレは調べなきゃいけないと思うんだ」
そう告げて彼は建物に帰っていった。私は渡された紙きれを落とさないようポケットの奥にしまう。
”今日の処刑はどう考えてもおかしかった。政府による大量殺人なんて声もある。その真相をオレは調べなきゃいけないと思うんだ”
その言葉が頭で繰り返される。もしそれが本当なら。怒りで手が震えた。
いつか会って色々なものを見せてあげたかった。外の世界を、私の世界を一緒に過ごしてみたかった。でも、もうそれは灰となって散ってしまっている。
「……決めた」
私は顔も知らない友人の死の理由をどうにか暴きたい。無慈悲に命を奪われた彼の無念をどうにか晴らそうと心に誓った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます