第五章未来を知る者



「記憶を消されなかった者がいる……?」


透は祖母の姿を思い浮かべながら、男に詰め寄る。


「それはどういうことだ?」


男はしばらく沈黙した後、静かに語り始めた。


「記憶を消す力は絶対ではない。ある条件を満たした者は、その影響を受けない。」


「条件……?」


「それは、“能力を完全に覚醒させた者”だ。」


透とヒカリは驚きの表情を浮かべる。


「能力が完全に覚醒していれば、記憶を消されることはない。しかし、多くの人間は覚醒前に記憶を奪われた。」


「……だから、みんな自分が能力者であることを知らないんだ。」


葵が呟く。


「そういうことだ。だが、お前の祖母は違った。」


男は透を見据え、静かに言った。


「彼女は“未来視”の能力を持つ占い師だろう?」


「……!?」


透は息をのむ。


「未来視の能力を持つ者は、“記憶を消される未来”を事前に見てしまう可能性がある。 つまり、支配者が人類の記憶を消すより前に、それを予見し、対策を取っていたんだ。」


「……だから、ばあちゃんは記憶を消されなかったのか?」


透は祖母の言葉を思い出す。


――「透、お前の力は決して一人のものじゃない。そのうち、お前と“共鳴”する者が現れる。」


――「その時、お前は選ぶことになる。この力を使うか、それとも……」


「祖母は、俺がこの世界の真実に辿り着くことを知っていた?」


男は静かに頷いた。


「おそらく、お前が能力を使い続ければ、いずれ共鳴が広がり、世界の秘密に近づくと分かっていたのだろう。」


透は拳を握りしめる。


「……ばあちゃんは、ずっと俺に“気づく時”を待っていたんだな。」


祖母は何も言わなかった。だが、透が選択を迫られる日が来ることを知っていた。


そして今、その時が訪れたのだ。


「そして今、お前たちは共鳴し、覚醒しつつある。」


男の視線が、透と葵を鋭く射抜く。


「このまま共鳴が広がれば、他の人間も次々と能力を思い出すだろう。」


「……そしたら、この世界のルールが崩れる。」


透が呟く。


「そうだ。そして、それを望まない者がいる。」


男は静かに言った。


「“支配者”は、お前たちを消しに来るだろう。」

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