5. 雫の魔法

レオナードはくる日もくる日も遊んだ。ルナと遊べば心が昂り、体温がカッと上がる。

走り回れば火照る体、水に入れば感じる冷たさ。無限に広がる草原に、赤く焼ける空。

大空を自由に飛ぶ鳥を見た?

ヒラヒラまう蝶を捕まえた?

露に濡れる花を見た?

それはどれも__

「ねえ、楽しい?」

風に靡かれる髪は、束になって待っていた。今日はやけに風が強い。草原で笑いながらルナはそう問うた。

「うん、楽しいんだと思う。なんだか温かくなる。」

「じゃあ、幸せなんだ!」

天使のような顔とは、彼女のことを指すのか。にぱりと効果音がつきそうな表情でもルナはそう言った。

「これが...、『幸せ』」

「うん!」

どくんとレオナードの心の臓が揺れた。

(なんだ......?)

答えがわからずモヤモヤする。後でルナに聞こうではないか。

「もうすぐ暗くなるね。」

しんみりといった感じに、ルナはつぶやいた。

「帰る?」

「うん、帰ろっかぁ。」

手をそっと差し伸べられて、レオナードはゆっくりと掴んでみる。ほんのり温かく柔らかなその手は、レオナードのよりもずっと小さかった。

(この子はまだ幼いんだ。)

その手を握ってそうわからせられる。すっぽりとレオナードの手に包まれてしまう程、小さなルナの手はなんだか弱々しく感じた。

——弱きものを守れ

ニパに過去に教わった言葉が思い起こされる。

レオナードは未熟だ。未熟であれど、一人で生きられる一人の大人である。それに対し、自分の先生であれどルナはまだ幼き子供であった。それを、手を繋いでレオナードは再認識した。

「どうしたの?」

立ち止まっていたようだ。少し手を引っ張るかのように、ルナは振り向いていた。

「…なんでもないよ。」

笑って見せれば、彼女は笑った。ルナはよく笑う。しかし、時々寂しそうなのだ。何故なのか、レオナードにはわからない。

「早くいかないと、真っ暗になっちゃうよー!」

「まだ暗くならないさ。」

レオナードはそう言いつつも、ルナに手を引かれて歩いて行った。



その時は突然来た。

この日もルナと遊ぼうと、レオナードは孤児院を訪れていた。

「ちょっとすみません。」

肩まで金髪を垂れている女性がレオナードに声をかけてきた。あまりにも申し訳無さそうなので、レオナードは不思議に思う。

「はい。何ですか?」

「最近、ルナちゃんとよく遊んでらっしゃいますよね?」

「ああ、そうだけど...。取り敢えず、名乗っていただけませんか?」

「あっ‼︎」

女性は頬を掻きながら、慌てて照れる。それから少しもじもじした。彼女はおっちょこちょいの子なのだろうか。

「えっと、私はこの教会でシスターをやらせて頂いております、エレナ・リズベーターと申します。」

ぺこりと頭を下げて、丁寧に名乗ってくる。

「僕はレオナード・ラベッサと申します。」

「レオナード様、ですね」

なぜすぐに名前呼びなのか、という感想は置いておく。レオナードは話の続きを催促する事にした。

「で、僕に用があるような様子でしたが何か?」

「はい。実はご相談したいことが...。」

「相談したいことですか?」

「はい。結構長くなってしまうのですが...。」

申し訳無さそうに俯くエレナ。レオナードは溜息を一つついた。しかし何だか訳ありそうな気もするし、ルナのことなのかもしれないため、レオナードはエレナの話を聞く事にする。

「相談を聞かせてもらっても?」

レオナードがそう言えば、エレナは明るい表情になりにっこりと笑って「はい!」と返事をするのだった。

「でしたら少し長話になりますので、奥の部屋で席についてお話しさせては頂けないでしょうか。勿論お茶もお出し致します。」

「ではそれで。」

レオナードはエレナの言葉に甘えて、茶をしばきながら相談に乗る事にしたのだった。

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君を幸せにする為の999の魔法 too*ri @too-ri

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