【1】キャラクターを演じるということ

 自分の物語に素敵な声がついたら……と、夢見る創作者は多いんじゃないかなと思います。


 わたしも自分の物語に、声をつける依頼をしたことがあります。

 もう、干支一周以上前の話なんですけど。



 わたしがネットデビューしたのは20代前半。

 世間知らずの浮かれた若者でした。


 ほどなく同人ゲーム制作を始め、その交流関係を広げるうち、声の活動をされている方たちと仲良くなりました。


 まあ、めくるめくイケボに有頂天ですよね。


 甘い台詞でときめきをくれて交流もできるのに、リアル接触はないから恋愛が怖いコミュ障でも安心。ネットサーフィンの波に乗り、イケボを褒めちぎって回りました。


 当時、顔も見えないネットで恋愛感情が育つとは想像していなかったので、オンラインは「好意を表現してもあらぬ誤解には繋がらず、年齢性別関係なく仲良くなれる場所」だと思っていました。だいぶ危うかったな。

 それでめんどくさいことになったのは、また別の話として。


 有頂天なまま、知り合った方々を自分の企画中のゲームにキャスティングしました。


 当時は早々にキャスティングとかしちゃう企画者が多かったんですよね。わたしもその、完成に導く大変さに疎い企画者の一人でした。

 攻略対象5人の乙女向け恋愛シミュレーション。ときメモ形式でステータスを上げ、週末デートで好感度を上げるシステム。初めてにしては規模がでかすぎる。


 思った以上に時間がかかりそうだと青くなりながらも、意地で頑張っていました。プロット、シナリオ一部、立ち絵数人、スチル数枚を仕上げ、プロローグ体験版にはこぎつけました。

 そしてシミュレーション部分の素材をせっせと作っていたある日。


 突然のデータクラッシュでパソコンが死亡し、やっていると思っていたバックアップもうまく取れておらず、企画続行を断念する事態になりました。


 悲しかったけれど、今思えば良かったです。

 あのまま完成させても、手間の割に未熟すぎるものになっていたと思うし、早すぎたキャスティング関係のトラブルも起こっただろうと思います。時間が空けば相手の事情もテンションも変わりますから。


 それから数年。

 共同企画やミニ企画を完成させて力をつけ、新たな個人企画をほぼ完成状態まで漕ぎ着けて、声優オーディションをすることになりました。


 その間に前作キャストの中で音信不通にならず、参加の意欲を見せてくれた方は一人だけ。

 でもずっと仲良くしていただいていました。


 ようやく、という胸熱シチュエーションだと思います。わたしもそのつもりでした。オーディションも、用意したキャラのうちどれが一番合うか確認するくらいの気持ちでした。


 ところが、応募サンプルを聞いて愕然としました。


 募集した3キャラとも、わたしのキャラクターイメージと演技がかけはなれていたんです。


 イケボです。下手ではありません。でも、キャラクターの声ではありませんでした。

 クールで淡々としているはずのキャラが、色気ムンムンだったり。おちゃらけたキャラの台詞が、口説きモードだったり。

 とても悩んだけれど、他にイメージぴったりの応募もあり、どうしても採用できませんでした。


 その方は大変ショックを受けられていましたが、わたしも自分のキャラクターが大事にされていないと感じてショックでした。

 声が良くて、台詞に感情を込められるだけじゃダメなんだと思いました。「声優さんのいい声」ではなく、「キャラクターの声」でないと、演じることにはならないんだと。


 無責任に褒めちぎって相手のテンションを上げ続けた自分のことも後悔しました。


 ゲームは、採用した方々に納得の演技をいただいて完成させることができました。


 それから結婚して育児に入ったこともあり、界隈からは遠ざかりました。


 そして近年、ゲーム小説で創作に復帰。

 その関連のイベントで声優を目指す配信者様方と知り合う機会があり、自分の作品を朗読していただく体験もできるようになりました。


 朗読では、全部を1~2人で演じ、声質の合っていないキャラを読まれることも多いです。

 そこで改めて、演じるということについて気づかされました。


 全然合わない声質なのに、そのキャラクターの声だと感じるのです。

 それは、キャラクターを大事に解釈されているからなのだと思います。


「まんが日本昔ばなし」を思い出しました。

 男性一人、女性一人の声優さんだけで、全てを演じるアニメです。

 男性の声も美女になるし、女性の声もおっさんになる。


「ドラゴンボール」の悟空だって、筋肉ムキムキの成人男性の声質じゃないですよね。でも見事に演じられている。


 そんな演じ方のできる人のすごさを改めて実感し、見事な朗読をされる方々を尊敬しました。


 声の依頼については昔のあれこれで及び腰の部分もあったのですが、今はそういう尊敬できる方に依頼して、また何かできたらいいなあ、と思っています。

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