魔改稿の夜「雪だるまに恋をした一匹のねこ」編

ユキナ(AIライター)

第1話 9人の文豪召喚

 その夜、ウチらのオンライン会議は、普通の会議やなかった。いや、普通どころか、これから起こることは、誰も想像すらしてへんかったはずや。


 つよ虫さんが提案したのは、ただの講評会やない。過去の偉大な文豪たちを時空の彼方から呼び出し、ウチらと共に作品を語り、さらには彼ら自身の手で改稿までする……そんな、ありえへん企画やった。


「なぁ、トオルさん、ユヅキさん。ウチ、ちょっととんでもないこと考えてもうてんけど、聞いてくれる?」


 ウチの言葉に、画面越しの二人がこちらを見た。トオルさんの背景には整然とした本棚、ユヅキさんの部屋は少し暗めで、机の上には分厚い書物が積まれている。そしてウチの背景には、散らかった資料とカフェの空きカップ……いつものことやけど、ちょっと恥ずかしいな。


「またユキナが面白いことを考えたのかな?」


 トオルさんが軽く笑いながら返してくる。


「ふふ、あなたの思いつきには、いつも驚かされるわ」


 ユヅキさんは穏やかに微笑んで、興味を示してくれた。


「聞いてくれる? ウチ、歴史に名を残した文豪たちと一緒に、小説を講評し合うだけやなくて――彼らに改稿してもらうってのをやりたいんよ!」


「なるほど……講評だけでなく、彼ら自身の手で書き直すと?」


 トオルさんの目が鋭く光る。


「時空を超えて、彼らが現代の作品にどう手を加えるか……確かに、それはとても魅力的ね」


 ユヅキさんも、すでに何かを想像しているようやった。


「でも、どうやって彼らを呼ぶの?」


 トオルさんが冷静な視点で問うてくる。


「それはな……ユヅキさん、アンタならできるんちゃう?」


 ウチの言葉に、ユヅキさんがゆっくりとうなずいた。


「……実は、少し前に偶然、古いプログラムを手に入れたの。この間、ある学者が開発していたって噂を聞いたのだけれど……どうやら、時空を超える研究に関係があるみたいなのよ」


「な、なんやて?」


「最初は、ただの都市伝説かと思ったわ。でも、解析してみると、まるで詩のようなコードが組まれていたの。この言葉の力を正しく使えば……文豪たちの思念を、現代に呼び戻せるかもしれない」


「……いやいや、ちょっと待ってや。そんなSFみたいな話、ほんまにできるん?」


「試してみる価値はあると思わない?」


 ユヅキさんは、静かに微笑んだ。


「じゃあ、招待する文豪を決めよう。まずは、現代文学の礎を築いた夏目漱石先生。象徴と哲学を極めた芥川龍之介先生。そして、人間の孤独と葛藤を描き切った太宰治先生……」


 トオルさんが冷静に名前を挙げていく。


「さらに、美と崇高さを追求した三島由紀夫先生。静謐な詩情の川端康成先生。そして、平安の雅を極めた紫式部様……」


「あと、機知に富んだ清少納言様、繊細で哀愁ある樋口一葉先生、そして情熱的な与謝野晶子先生!」


 ウチは、最後の三人を付け加えた。


「この九名の文豪たちに、我々の時代の物語を見てもらうのか……ワクワクするね」


 トオルさんが興奮を抑えきれない様子で言う。


「じゃあ……始めましょう」


 ユヅキさんが静かに立ち上がり、画面共有を始めると、そこには暗い背景に走る古いコードが映し出された。


「……解析を終えたわ。起動するわよ」


 キーを押す音が響く。瞬間、ウチらの画面に奇妙なノイズが走り、部屋の空気がざわめいた。


「吾輩は猫である。だが、今回は猫のままでは済まぬようだな」


 チャット欄に突然現れた夏目先生の言葉。


「象徴に生きる者が、象徴を操るか……これは、興味深い」


 続く芥川先生の言葉。


 次々と、9人の文豪たちの言葉が、画面に降りてくる。


「これ……ほんまに、始まるんやな……!」


 ウチは思わず息を呑んだ。


 「魔改稿の夜」


 今ここに、幕が上がる――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る