第2話
カウンターから二人分のため息が聞こえてくる。サーブしてた店員は腕をまくり、カシャカシャとカップを下げた。そして奥へ移動し、蛇口をひねる。叩きつけるような水流。一旦、止めるとカップを丁寧に洗い始めた。
ボブの店員はカウンターへ両腕を置き、猫へ話しかける。
「ちょい、あんたどおゆうつもり?」
猫の姿からくるりと空気をまとうように人の姿へと戻った。
「いやぁ、あの子、駅前で異能のチラシ受け取ってたから絡んでみたら花びら落としたんで。ついつい」
三毛模様のTシャツに茶色のゆったりしたハーフパンツ。
「人助けのつもりなん?
猫に変身する異能を持った彼女は喫茶店へ導くという役割を見いだしたようだ。
「ちょ、ちょお。さっきの子には優しかったじゃあん」
斗織は両手を前に出して肩をすくめ、たじろぐ。
「さっきの子は客や」
西の言葉を操る店員は冷静に吐き捨てる。
「……
カップを洗う手を止め、扉の先に視線を移した。
「そやな、客やからな」
ふ、と斗織から視線を外し、奥にいる店員へと視線を投げかける。
「ちょ、ちょお。よーこさぁん、私の存在、忘れてませんか! すぐいちゃつくからぁ」
「とーるは客でもなきゃ、店員でもないんやで」
体を奥へとひねる。
「
視線を逸らし、カップを洗う作業へ戻る。
「そやけど、今んとこあゆみと同棲できてるからそれでええかなぁって」
央子はあゆみの肩に手を乗せる。ふんわり、肌に触れないように優しく。仕事中だから、と小声が聞こえて央子は慌てて手を放した。
洗ったカップを丁寧に吹き上げ、棚の定位置に戻す。あゆみは央子の冗談とばかりに明るい声で斗織に呼びかけた。
「またすぐそういうこと言う。根子ちゃん、お客さん連れてきて! 美味しい珈琲おごるから」
「かしこまりぃ! あゆみさん、大好き。んじゃ、行ってきまぁす」
しゅるしゅると空気を巻き込むように猫に変わった斗織のそばを通り、あゆみは喫茶店の扉を細く開けた。
にゃあんと鳴いてしっぽをしなやかに立ち上げ、鼻を利かせると商店街へ駆けていく。
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