第4話

「護衛なんて所轄刑事の仕事じゃないですよ」

「本部からのご指名なんだよ。理由は知らんがな」


「政府の要人ならともかく、私人に警察が警護なんて」

「御曹司なんて要人みたいなもんだろ。殺害予告があったんだよ。明日の夜、パーティーの最中に殺すってな」


 獅子堂グループは不動産業の大手だ。この八鷹やたか警察署の管轄である八鷹市の駅前を大規模に再開発することでニュースにもなった。再開発で治安がよくなるのでは、と期待されている。


 だが、裏の世界の住人には迷惑な話でもあった。だから何者かの恨みを買ったのだろう。


「どうせいたずらですよ。お金はあるんでしょうから警備員でも雇えばいいのに」

「ごたごた言うな。これから獅子堂の本社ビルに行って挨拶してこい」

「今から?」

「初間も連れて行け」

 しっしっと追いやるように手を振られる。


「了解しました」

 むっとしたのをこらえて、咲弥は頭を下げた。






 諒也の運転する車で獅子堂の本社ビルに向かった。


「普通、殺害予告があっても一般人に警察がはりついて警護ってあんまりないよね」

「それほど危ない状況なのかもしれないわね」


 よほど危機的状況にない限り、通報があってから動くのが一般的だ。


「警護対象は獅子堂悠雅。33歳。獅子堂不動産グループの御曹司で、現在は子会社の獅子堂開発株式会社の社長。独身のひとりっ子。狙い目だよ」

 諒也の最後の一言を、咲弥は無視した。


「ご両親は?」

「海外に出張中。殺害予告が来たのは1週間前。再開発をやめないと殺す、というメールが来た。被害届は出されてる。サイバー犯罪対策班がメールの出所を探ったけど、差出人まで辿り着けなかった」


「予告の詳細は?」

「明日の夜7時から開始されるレセプションパーティーの最中に殺してやる、と」


「中止にできないの?」

「できないって。会場は警察が調べるけど、獅子堂グループの警備会社も警備してくれる。ゴールドクラウンホテルで、500人が来場予定」

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