第2話

「僕が担当した子はさ、おじさんが優しくしてくれるからやってたって。泣けてきちゃうよ。親に虐待されてるらしくてさ」

「そっちもやるせない気持ちになる相手ね」

 咲弥は顔を険しくした。問題行動を起こす少年少女は、やはり家庭に問題を抱えている場合が多い。


 彼女らは金を求めているが、同時に心の隙間を埋めようとしているのだ。

 だが、その行為は彼女らをむしばむ。いつか人生を壊すきっかけになりかねない。


 あるときは行為を動画にとられて。あるときは売春を恐喝の材料にされて。価値観の崩壊、予想外の妊娠や、命に係わる病気をもらうこともあるし、後悔に精神を病むこともある。人生を歪める要因はたくさんあるのだ。


「指示役を捕まえられなかったのが痛いわ」

「前の一斉摘発もそうだったよね。捜査情報がもれてるみたい」


「怖いこと言わないでよ」

 咲弥も疑ってはいた。が、それはつまり内部に犯人の協力者がいるということになる。


「彼女らは半グレが仕切ってたみたいですね」

「厄介ね」


 ヤクザや暴力団のほうがまだルールがある。

 半グレは裏社会のルールが通用しない分、たちが悪い。ヤクザや暴力団の領域すら簡単に踏み荒らし、彼らと暴力沙汰を起こすこともままある。


 ヤクザと言えば、と一人の少年を思い出し、咲弥の胸がちくっと痛んだ。彼は元気でいるだろうか。

 だが、今は感傷に浸っているときではない。


「顧客リストは一部が消されてたらしいけど、復元できるのかな」

「鑑識に頑張ってもらわないと」

 いい年した大人が分別なく少女を買うなんて、まったくもって許せない。


「性犯罪者は全員死刑になればいいのに」

「雛川さんこそ怖いこと言うよね」

 諒也は大袈裟に肩を竦めて見せた。直後、うれしそうに声を上げる。


「菜原さん!」

 彼の目線を追うと、菜原潤香なはらうるかが刑事課に書類を持って来るところだった。


「お疲れ様です、雛川さん」

 潤香がにこっと笑った。


 咲弥はひきつった笑顔を返した。

 彼女は潤香が苦手だった。小さくてかわいくて女の子らしい。その上、なにかと咲弥にからんでくる。


「背が高くていいですねえ」

 また今日も言われた。

 咲弥はうんざりした。

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