つばめを追う

@atulus1014

第1話

ゆっくり、ゆっくり。

今日も今日とて屋上に1歩ずつ、ゆっくり上がっていく。

屋上への扉をゆっくり開けると、冬の風が吹き込み寒さで一瞬体が強ばる。

そして目の前にいつもあの子がいた。


「寒いのによく毎日いるよね」

今は12月12日、寒さで猫もこたつで丸くなる季節なのにこのボブカットの子は屋上の柵に手を付けて街の風景を眺めている。


「私は街を見守る仕事してるから」

学生だろと野暮なツッコミは心の中にしまい、彼女との会話を楽しもう。


「街に騒ぎが起きたら君は出動するの?」

俺が言葉を紡ぎながら彼女の横に立ってみる。

言葉を言い終えた後、彼女は俺の顔をムッとした顔3秒間文句言いたそうな目で見てくる。


「君って言わないで、白石あかりだから」

「失礼したね、白石さん

てかほんとになにみてるの?」

「今日授業中に外を見てたらつばめが屋上に上がっているの見えたの」

「へぇーつばめね

それでそのつばめは?」

「あそこ」


彼女はかじかんだ細い指を裏庭の大きい木に向ける。

なるほど、枝で隠れているが確かにつばめの親子が3匹ほど見える。


「つばめって幸福を呼ぶ鳥らしいよ」

「それはいいな、是非俺を幸福にしてほしいや」

「黒巻くんは幸福とは程遠そう」


そうか?俺、黒巻柊はハッピー人間に見えると思うけどな。


「まぁ、幸福だの幸せだのって自分の中の価値観で決めるものだからね」

「なんだそのフォローは、白石さんこそ幸福とは程遠いぞ」


顔見合せちょっと睨み合い、3秒後にお互い笑い合う。

彼女は笑顔が可愛い。だが無表情のことが多い気がする。


「明日はね、勇気出すんだ」

「…あぁ、頑張って。でも無理は禁物だよ」

実はなんの話しか分かっていない。彼女は唐突に分からない話をすることがたまにある。

聞き返しても答えてくれないからこんな返しになる。

だが、なにかを考えてる彼女の横顔を見てるとあの頃を思い出す。大切なあの頃を。


そのまま俺たちは10分ほど黙ってつばめを見届け、寒空の下明日も幸福を願う。

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