フリー台本 堕落の教示者

バリスタおにいさん

堕落の教示者

【登場人物】

本に封じられた魂:演者。男女どちらでも可。優雅で威厳のある言葉遣い。

主人公:聞き手。男女どちらでも可。セリフ無し。


【概要】

とある教会の地下室に、休息を求めてやってきた主人公。

そこで本に封じられた魂と出会い、徐々に心を開いていき――。



【本文】


SE:ぎしぎしと、古い木の部屋を踏む足音

「こんな地下室に、何の御用かな?」

SE:しりもちの音

「はは……驚かないでくれたまえ。まずは落としたランタンを拾いなさい。火事になっては困る」

「見たところ、キミはこの教会の信徒といったところか。首から提げているのは教会のシンボルだろう? 心清き者よ、歓迎しよう」

「あぁ、私はここだ。ほら、本棚に黒い本があるだろう?」

「そうだ。手に取ってみたまえ。尤も、キミの知らない言語だろうがね」

SE:本を手に取る音

SE:本のページをめくる音

「私が何者かって? この本に封じられた魂だ。悪魔などという濡れ衣を着せられ……理不尽なことだ」


「まぁ私のことはいい。キミの話を聞かせてくれ」

「何、ひとりでゆっくりしたかった? なるほど。教会の者は皆忙しいからな。迷える子羊を救うためにも、まずはキミ自身の心にも休息が必要だろう。心中察するぞ」

「ん? 少し違う?」

「……いじめ、られているのか。そうか。それでひとりで休める場所が欲しかったのだな」

「許してくれ。キミの休息を邪魔するつもりはないが、私は本に封じられている。ここから出ることはできない。ひとりになりたければ別の場所を探してくれないか」

「む、私に話し相手になってほしい、とは……。さては酔狂だな。いいだろう。人と話すのは100年ぶりか」


(少しの間)


「ほうほう……そうか……それはツラい思いをしてきたのだな……」

「泣かないでくれたまえ。聞いているこちらまで、一緒に悲しくなってしまうではないか」

「キミが悪いわけじゃない。悪いのは周りの人間ではないか」

「(涙ぐんだ声で)キミは頑張ったのだな。偉いぞ。心に溜まった暗闇を、いくらでも吐き出したまえ。私が受け止めてみせよう」


「なぁ……少しばかり、こらしめてやりたいとは思わないか?」

「どうやって、か。安心したまえ。私なら、キミに力を与えることができる」

「そのためには、私の封印を解かなくてはならない。……一滴でいい、キミの血を分けてくれないか?」

「無理にとは言わない。今日会ったばかりなのだ、私を信用することはない」

「それとも……悪人と言えど、懲らしめることに、後ろめたい気持ちでもあるのかな?」

「ふふ、キミは優しいな」

「だが、だからこそ私は許せない。キミのような心優しき人間を悲しませるなど……!」

「……失礼、取り乱してしまったね」

「キミの心が死んでいくのを、私は見たくないのだ」

「いや、今の話は忘れてくれ。懲らしめることなく、平穏に暮らすのも良いだろう」

「キミは心清きものだ。どうか、そのままのキミでいてほしい」


(少しの間)


「私に血を捧げる? 本当にそれでいいのだな?」

「覚悟はできているようだ。ならば……」

SE:ページがめくれる音

「このページに、キミの指を置くといい。少しだけ吸わせてもらおう」

SE:ページに指を置く音

「心清き者よ、歓迎しよう。キミという、生贄を」

SE:本が閉じる音

SE:ランタンをおとすゴトっとした音

SE:炎が燃え広がるパチパチとした音



(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フリー台本 堕落の教示者 バリスタおにいさん @barista_oni

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ